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すずめの戸締まりのcocoのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

美しい虚構を通して、いま生きている現実の儚さを、愛しさを伝えてくれる作品。鑑賞後に、映画の中に描かれたあれこれに思いを馳せるより先に、現実に生きる誰かを思い浮かべる。そういう気持ちにさせてくれたこの作品は、ああほんとうにいい映画だな、と思った。

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登場人物みんなが、ちゃんと、子どもは子ども、大人は大人として描かれているところがいい。
主人公の鈴芽は、子どもらしい無鉄砲な危うさがあって、でも大人への道をしっかりと歩んでいる。叔母の環は、内にぎこちなさを抱えながらも、鈴芽に対して親であろう、大人であろうと努力し、それがちゃんと愛情としてふたりをつないでくれている。
他にも様々な登場人物が出てくるが、みんな鈴芽の旅路を支えてくれる素敵なキャラクターだった。

物語の序盤に出てくる環さん作のキャラ弁、鈴芽はそれを友だちにからかわれているっていう構図が、環さんと鈴芽の拭いきれないぎこちなさを表していて、演出の密度が凄まじい。
鈴芽が常世で幼い自分に「ちゃんと大人になれるよ」って語りかけるシーン、あれだけ大丈夫だよってちゃんと過去の自分(痛み・傷の象徴)に言えるのは、環さんと過ごした12年間があったからだろうなと思った。その説得力を2時間のなかで描くのに、序盤のキャラ弁が活きてる。愛情がなきゃ、そんなにしょっちゅう作れないよ。

他にも演出や台詞回しの密度が凄すぎて、説明らしい説明はないにも関わらず、映画として描かれた2時間の外にもしっかり物語があることを感じさせてくれる。登場人物みんながそれぞれの人生を生きてる。

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地震の描写が数多くあり東日本大震災にも触れている(というか物語の核)ので、そういうのキツい方は注意が必要。すごくいい映画だけど、地元(仙台)の友達にすすめていいか迷う程度には出てくる。

「いってきます」「いってらっしゃい」「ただいま」「おかえり」…いつも何気なく交わす言葉たちかもしれないけれど、それがどれほどかけがえのない日常のなかで紡がれているかを改めて気づかされる。自分は幸運のなかで生かされている。
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