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すずめの戸締まりのFilmarksのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.8
「おはよう」「いってきます」「いってらっしゃい」

新海誠の中で一番よかった。

「死ぬのが怖い。もう少し生きていたい。」など、真っ直ぐな思いが素直に表現されているのがなによりよかった。そうだよなぁ、、、と素直に思わされた。

「どれだけ思いや考えを尽くしても、観客はこちらの事情には冷徹で無関心です。〜 観客の感想だけは作り手にはコントロール出来ないんです。」(劇場配布『新海誠本』)

『君の名は。』では、「今、笑うとこです!はい、感動してください!」的な誘導されてる感覚があった。実際、感情グラフなる制作技術を使ってるとのことだった(普通のことで、今作にも使われてるのかもしれないが)。

『君の名は。』『天気の子』ではそういうあざとさ・媚び・計算高さ・ドヤ感・過剰演出・RADのPV感が気になったが、今作ではほとんど感じなかった。

でも前2作の経験、観客の反応、そしてなにより時間の経過は、いろんな意味で今作に必要なことだったんだとも思った。

要石を担わされてきたダイジンに救いはあるのか、、、唯一気になった点。

ロードムービー、記憶・トラウマに触れることなど、『ドライブマイカー』を思い起こした。

阪神淡路大震災の神戸、関東大震災の東京からの北上。防潮堤、山積みの何か、遠くにみえる原発らしき建物、基礎剥き出しの岩戸家跡、黒塗り日記の日付、打ち上げられた船、燃えている街、すずめの母が亡くなった理由。ここまで直接的に描くのかとどきどきした。

3.11は未来においては必ず描かれるに決まっている出来事なので、いつか誰かが先陣をきらなければならなかった(まあ他にもあるけど、そのうちの注目度の高い大作の一つとして)。とても勇気がいることなんだろう。3作連続で「災害」や「日本」を描いてきたのだから、生半可ではない気持ちがあるのだろうという信頼・安心はあった。

一方で、当然やはり私は当事者でないからこそ「安心して」観れたのだろう。そこのところを考えたい。

非当事者の私にとってはやはり東浩紀のいう「観光客」概念が考えるヒントなんだろうな。すずめは当事者として戻り、声(記憶)を聴いた。私は「観光客」として訪れ、声(記憶)を聴きにいきたい。


東浩紀

・観光客の哲学の余白に(22) 郵便的連帯と「接触」|東浩紀
https://www.genron-alpha.com/gb052_02/
「ぼくは、『観光客の哲学』で、そのようなダイナミズムこそを郵便的連帯(郵便的マルチチュード)と呼ぼうとしていた。それは、連帯を根拠づける大きな物語(革命理論)を信じるわけではないが、かといって連帯を自己目的化するわけでもなく、たまたまなにかと遭遇する、たまたまだれかと仲間になるといった偶然性を貪欲に呑む込むことで、たえず連帯そのものの定義を更新していくような連帯である(なぜこれを「郵便的」と呼ぶかといえば、そこには「誤配」というぼく独自の概念が関係しているのだが、その話は複雑になるので横に措いておく)。
 無による連帯ではなく、訂正可能性による連帯。たえず更新され拡張されるが、それでも遡行的に必然性を生産し続ける連帯。」


・渥美公秀
東浩紀(2017)『観光客の哲学』genron
http://kyosei.hus.osaka-u.ac.jp/archive/%EF%BC%97%E6%9D%B1%E6%B5%A9%E7%B4%80%E3%80%80%EF%BC%882017%EF%BC%89%E3%80%80%E8%A6%B3%E5%85%89%E5%AE%A2%E3%81%AE%E5%93%B2%E5%AD%A6%E3%80%80genron/
「まず、最近の災害ボランティアの現場を振り返ってみる。被災地に開設される災害ボランティアセンターを経由するボランティアがいる。災害ボランティアセンターのマニュアルは細分化されていき、全国的な組織が形成され、国や自治体、そして、私企業がそれを支える秩序化の動きが進行している。一方、もっと自由に気ままに活動する災害ボランティアもいて、「勝手に被災地に駆けつける」、「支援が集中していないところにこそ支援に入る」、「被災者に寄り添う」といった姿勢を堅持しようとしている。私が親近感を覚えるのは後者である。後者の災害ボランティアに郵便的マルチチュードの姿を重ねることができると思うわけである。

まず、遊動性を堅持する災害ボランティアは、「勝手に被災地に駆けつける」。物見遊山(と揶揄されようと)に出かけていく郵便的マルチチュードと同様、ふと出かける。次に、遊動性を堅持する災害ボランティアは、災害ボランティアセンターによるコーディネートにとらわれることなく、誰彼となく支援を展開する。物見遊山に出かけた郵便的マルチチュードが、連帯なしに誰彼となくコミュニケーションを図るのと同様である。そして、遊動性を堅持する災害ボランティアは、「支援の集中しないところ」に赴く。そこでは、支援の集中を回避することで、スケールフリー性が回避される。具体的には、誤配が演じられることで、支援の不平等化が回避される。郵便的マルチチュード(観光客)が、通常の観光地に飽き足らず、より独自の観光地、誰も行かない場所にも行きたくなることと対応する。最後に、遊動性を堅持した災害ボランティアが「被災者寄り添う」というとき、実は、何も具体的な事柄は特定されない。いわば不能である。不能の父として描かれたアリョーシャ、郵便的マルチチュードの主体である。

牽強付会、我田引水の誹りを招くかもしれないが、一旦、こうして対応をつければ、あとは著者の議論に沿って色々な問題が解ける(ように思える)。ひと言で言えば、遊動性を堅持した災害ボランティアの優位性が語れるようになる。観光客の身勝手さ、軽やかな真面目さ(不真面目さ)は、今後の災害ボランティアや共生を考えていくときのキーワードであろう。実践は、ここからスタートするのだという予感をもちながら、遊動性を堅持した災害ボランティアの1人として、また被災地へと向かうことになる。」


・松村正治
『観光客の哲学』
https://marrmur.com/2019/09/01/2169/
「まず、境界や限界を越えるものとして、現代思想に明るくない私たちでも理解可能で、当事者にもなりうる観光客に注目を促したところが優れている。
また、その観光客の役割についても、今日の閉塞状況を一気に解決してくれる者として期待するわけではない。そうした真面目ではあるが、どこかに無理のある議論に持ち込むのではなく、誤配される効果に目を向けようとする。
実際には、観光客が面倒な問題をホスト社会に持ち込むこともあるだろう。
それでも、そのようなリスクを孕んでいることを承知のうえで、誤配されることの可能性に意義を見出そうとしている。

このような考えは、著者の信念から導き出されたものではなく、現代社会を冷徹に分析した上で採りうる限られた選択肢として示される。
だから、あまりに現実的過ぎて、現状追認と紙一重に見えるかもしれないし、そういう見方をする人には好まれないに違いない。

しかし、私は徹底的に現実的に考える先に理想を見出したいので、基本的に著者の考え方に賛同している。」

「本書と併せて読みたいのが『テーマパーク化する地球』(ゲンロン、2019年)である。
ここでは「テーマパークと慰霊」というキャッチーなテーマを設定して議論を進めている。
もちろん、慰霊が正しくて、テーマパークが良くないという議論ではない。
慰霊のためのダークツーリズムも、テーマパーク化を免れない。」


・当事者から共事者へ(1) 障害と共事|小松理虔
https://www.genron-alpha.com/gb041_01/
「しかし、「当事者」という言葉を使って当事者の困難を外側に出すほど、同じ課題を抱える人たちの共感を生む一方で、「わたしは当事者ではない」という人、つまり「非当事者」を作り出してしまうようにも感じている。いわば「当事者のジレンマ」が生まれる。」

「そこでぼくが思いついたのが「共事者」という言葉だった。当事者ではない。当事者を直接的に支援しているわけでもない。研究者でもなければジャーナリストでもなく政治家でもない。プロフェッショナルでも専門知識を有しているわけでもない。けれど、当事者性はゼロではなく、社会の一員としてその物事を共にし、ゆるふわっと当事者を包み込んでいる。そんな人たち。あるいは、専門性も当事者性もないけれど、その課題と事を共にしてしまっている。そのようなゆるい関わり方。それが現段階でぼくがイメージしている「共事者/共事」だ。

 ゲンロンの読者なら察しがつくように、この「共事者」という言葉は、東浩紀さんの「観光客」の概念を、より「課題」や「現場」や「地域」、つまり「ローカル」に引き寄せた言葉でもある。当事者か否かという二項対立をずらして、課題をふまじめに楽しみ、そのくせ社会課題解決のカギを握ってしまうような人たちをイメージしている。」


・東浩紀突発#71 戸締まってきたので語ります。月額会員限定。
https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20221116214800


・東浩紀突発#72 「天気の子」を今更見て超感動したので勢いで短時間語ります。月額会員限定。
https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20221117161633


・東浩紀突発#73 荒俣鹿島鼎談感想戦&新海誠アフター。月額会員限定。
https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20221121021338



さやわか

☆批評編(映画 #61)「本日公開!新海誠『すずめの戸締まり』ついに震災を直接語ったアニメ。えらい!」
https://shirasu.io/t/someru/c/someru/p/20221111221540
1:44:30~
「『君の名は。』
震災を忘却しつつ、なかったことにしようとする話
『天気の子』
「震災とか、終わった話じゃん。俺らの前提条件じゃん」と子供が強がる話
『すずめの戸締まり』
震災が真に忘れられたからこそ、震災があったことと、その忘却を描ける話」
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