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すずめの戸締まりのnomovienolifeのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.8
日本人の古来の世界観を震災という非常にデリケートなテーマに落とし込み、東日本大震災と津波で起こった悲劇が、日本国民全員の共有する「記憶」であることを再認識させてくれた映画だった。

新海誠監督の人柄に触れれば、この作品が彼にしか作れないものであること、そして非常に考えられて作られた作品であることがわかる。

先に述べたように震災をテーマにすることは簡単なことではない。ひとたび当事者の目線で描き過ぎれば、一部の観客を置いてけぼりにしてしまう可能性があり、また非被災者の視点で描けば、当事者の人たちの心を置いてけぼりにしてしまう可能性があった。実写映画とは異なり、エンターテイメント性が欠かせないアニメーション作品(あまりに重い内容では客足は重くなる)で、このテーマに挑戦したことは、それほど新海監督自身にとって、311に対する「想い」が強かったからである他ない。

蟲師にも通じる世界観で表現された神道であったが、恐らく新海監督は折口信夫をはじめとする民俗学も勉強している。仏教が伝来し体系化していく前の「古代神道」にはそもそも神道という名前すらなかった。その名前のない日本の伝統的世界観は、不思議なことに日本人には知識としてではなく感覚的に継承されてきているようにみえるが、その媒介的役目を果たしているのが日本アニメーションであることは特筆すべき点である。

この日本人の心に在る伝統的世界観にある普遍性を用いることで、語るに憚られる個々によって重さが異なる311を「刻を越え共有する記憶」として描き切った本作は、高く評価したいと思う。
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