茜雫

すずめの戸締まりの茜雫のネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
2.2

このレビューはネタバレを含みます

宣伝見てても地震の話なんて全く思わなかったのに映画でこれって。なんの事前通告もせずあれだけ宣伝で盛り立てて映画館に人を呼んでおいて閉鎖空間でまざまざと地震を描くって、それこそフラッシュバックを起こしかねないと思うんだけれど、新海誠は無差別テロがやりたかったのか?
新海誠本も読んだけど、製作陣はめちゃくちゃ地震を描く気が強い……というかそれメインじゃん。それを一切言わずに映画見せといて、挙句「観客の中にも、この映画を観ても震災を連想しない方が1/3から半分くらいはいるんじゃないでしょうか」? んなわけあるか。言い訳にしか思えない。たしかに今の小中学生は震災を知らない世代かもしれないけど、鈴芽だって高校生なのにしっかり震災に刻まれた傷を抱えて生きている(=高校生以上の世代はおよそ地震の記憶がある)わけで。そういう人がいることは一切考えなかったの? 宣伝で地震のこと伝えたら動員数が伸び悩むから言わなかった、としか思えない。

「大震災は絶対に起こさない」って草太が言ってたけど、ストーリーをそのまま解釈したら東日本大震災も、阪神淡路大震災も、関東大震災も、ぜーんぶ人間の努力が足りなかったから引き起こされたことであると言いたいんだろうか。震災はコロナの蔓延とも違えば地球温暖化とも違うし、戦争とも違う。人間の力ではどうしたって防ぎようがないことなのに。
実際は抗えない自然に抗って絶対にできない制止をフィクションで成し得ることが死者を悼むことや傷ついた人の慰めになると思ってるんだろうか。地震は「忘れてはならない」ことなんだろうか。少しずつ少しずつ記憶を抑え込む術を覚えて日常に戻れた人たちが、楽しみにしていた新海誠の映画を見て「震災を忘れるなよ」って掘り起こされるのって、エンターテイメントじゃなくない? 暴力だよ。テロだよ。草太とすずめの恋愛なんてそんなのそのあと考えたらよろし。

あと「日常から出発し、そこから最も遠い場所(死)まで行き、また日常に帰ってくる」ってのもひどい。死が日常から最も遠い場所? そうじゃない、死を身近に感じた地震被災者の方々はどう思えば良いのこの言葉。鈴芽みたいに、大切な人を亡くしてそれを抱えたまま生きていること、亡くした人を心に刻みながら日常を過ごしている人がいることがわからないのかな。

ジブリっぽさを感じるところはあったよ(最後の「会いにいくよ。必ず」は「ヤックルに乗って、じゃん」って思ったし)。
でもジブリは「自然を畏れ、自然を敬い、自然に感謝し、自然を受け入れて共存せよ」って説くのであって、この作品は「自然だって人間の努力次第でどうにでもできるよ! 震災だって防げるよ!」って。わたしはジブリ信者ではないけれども一緒にしないでほしいと思ってしまったな。

絵と音楽はよかったけど(作画は本当に素晴らしかった。この光は彼にしか描けないと本当に思う)、もうただのロードムービーとして以外にに評価できる点が一切ない。のんびり綺麗な風景を移り変らせて美しい映像と音楽を届ければよかったんじゃない? ただの恋愛ものにしてさ。
声はよかったです。原菜乃花も松村北斗も本当に上手だったし(なんなら原菜乃花なんて声優の方が向いているんじゃないかとすら思えた)、神木隆之介も初めて演技上手いと思えた。芹澤くん良かったです。好き。でもキャラクター云々以上に気になるところが多すぎて。

この作品わたしは無理ですね。見終わってからずっとこの映画に対して怒ってる。なんでこんなにウケてるのかさっぱりわからない。大絶賛してる人、本当にこれを見て何も感じなかったの?


2022_27
茜雫

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