ぺんじん

すずめの戸締まりのぺんじんのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.3
大震災によって多くの人々に空いてしまった心の穴。この物語はそういった心の穴をしっかりと見つめるという点では非常に良かったと思う。
そういった意味で大作ファンタジー映画としてはかなりの意欲作。『すずめの戸締まり』は震災後に向き合う、新海誠版『オズの魔法使』だ!
やはりこの映画を通じて感じるのは宮崎駿監督作へのあからさまなオマージュ。「ルージュの伝言」と猫といえば『魔女の宅急便』だし、人智を超えた巨大な魔物との戦いといえば『もののけ姫』。そしてイケメンと扉の向こうといえば『ハウルの動く城』だ!
新海監督は『星を追う子ども』でジブリっぽいストーリーにチャレンジしたんだけど、全体的に暗くてあまり上手くいかなかった。今作では前作の『天気の子』から「自己犠牲の否定」というテーマを引き継ぎながら、ポスト震災の話を上手くファンタジーとして組み込んで描けていると感じた。
序盤のすずめの行動は確かに違和感はあるけど、まぁ『ノー・ウェイ・ホーム』的な若気の至りという事で…
この映画の中で気になるのはやはり扉の向こうの描写。ここはすずめの願望が反映されている一方で、東日本大震災後の荒れ果てた土地を思わせる風景がある。という事はこの扉の向こうの世界は現実世界に対する、抑圧された個人的な無意識、そして集合的な無意識を表しているという風に読み取れる。村上春樹作品なんかはこういう話が多いよね。新海誠もディタッチメントからアタッチメントへ。
すずめが行なっている扉の鍵を閉める行為というのは、単に大震災を防ぐという事だけでは無く、無意識に抑圧されてしまった震災の記憶をもう一度見つめて、新たに理解し直すという事も意味していると思う。だから最後の部分ではどうしてもグッときてしまうよね…分かっちゃいるんだけどな…
どこか足りないメンバーが集まるロードムービーの元祖といえば、やはり『オズの魔法使』!HOMEを探す物語。最近の映画だと『ドライブ・マイ・カー』を思い出す人々も多いかも。
あとダイジンの気ままな感じというのはいかにも日本的な神様&自然観という感じがする。農耕の神っぽい。
40歳近い叔母さんの描き方も良かったな。仕事は出来るけど、どこかで我慢をしながら生きている部分がリアルに感じられたというか。若い男の描き方はまぁセクシー…神木くん、こんなに立派になって…(思わず涙)
震災の描写の仕方には色々と意見はあると思うけど、意欲的&根は真面目で結構良かったと思う。『天気の子』は子どもから見た世界の話だったけど、今作はもう一歩先に進めていて良かった。
ダイジン、ここはもう宮崎じゃないのよ。
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