スクラ

すずめの戸締まりのスクラのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.0
〈東日本大震災がエンタメ映画の題材になったことに驚き〉

設定・世界観こそ魅力をあるけど、世に出る時期を誤った感がある。
作家・京極夏彦は『遠巷説百物語』の刊行にあたって、「お化けというのは、災害や戦争、疫病のさなかには、出番がないんです。しゃれにならないですからね。(中略)東日本大震災から10年、まだまともに復興もしてないわけですよ。そこに今回の疫禍です。」と述べている。
被災者にとってはまだ10年。もう10年ではない。ところがこの映画では、まだ出番のないはずの「お化け」を登場させ、あの震災をエンタメ化してしまっている。
東北太平洋側の地域出身で当時をフクシマで過ごした私は、この映画がそれなりに否定的な意見を浴びさせられるのも無理ないと思う。
一方でこの映画は、今は首都圏に住んでいる私には、東日本大震災に対する社会の分断を表しているように感じられた。
首都圏にいるとあの震災は確実に過去のものになっているのが分かる。もう歴史の1ページでしかない。
だからみなし仮設住宅からの引越しの際のトラブルや就労に関するトラブルなどが報道で取り上げられると
「震災から何年経ったと思っているんだ」「いいかげん…」といった意見が飛び交う。
映画の企画段階でこの震災を扱うことに対してNGがかからなかったのも納得がいく。
被害を受けていない人、立ち直れた人にとっては過去の震災かもしれない。しかしながら、1万8千人ほどの死者を出し、未だに3千人近くの行方不明者がいるこの震災が過去のものになっていない人たちが少なからずいることは少し考えれば容易に分かることだろう。

この震災を扱った映画は他にもある。『風の電話』、『Fukushima 50』など。
この映画がそれらの映画と大きく異なるのが、予告編及びプロモーション段階で震災が題材であることに一切触れてなかった点である。これはさすがにずるいと思った。
映画の公開直前になって「緊急地震速報の音が鳴るよ、注意してね」なんてアナウンスして、ぎりぎりやるべきことはやった感を出している。
直前までこの震災の存在をオープンにしなかったのは、それが映画の宣伝にマイナスとなることを予測していたからではないだろうか。
試写会勢がこの点に一切コメントしていなかったのを見ると、たぶんここに触れることはNGが出されてたんじゃないかな。
(試写会では「この部分についてのコメントは無しで」と指示が入ることがたまにあるので)

今、世に出していい作品だったのだろうか。キャラクター・設定・世界観に魅力がある分、映画ビジネスとしてのやり方に疑問を感じる。

最後に私が2015年ころに国連防災世界会議でホテルの通訳アルバイトをしていたときに
あるアメリカ人宿泊客から言われた言葉を伝えて終わりにしたい。
「どうして私の部屋の番号が911なんだ。あまりにも不吉だ。」
911は2001年の出来事である。悲しい出来事に対して、「一区切り」は人それぞれなのだ。
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