むぎ

すずめの戸締まりのむぎのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
1.8

このレビューはネタバレを含みます

辛口注意です

『君の名は。』『天気の子』と、新海監督の作品は好きなのだけど、今作はあまり響かなかった。

①ロードムービーのように進んでいくけれど、震災をテーマにして描くにあたって、この形がベストだったのだろうか?物語(文学)としての必然性が感じられなかった。それなら事実を扱ったドキュメンタリー番組の方が良いと私は思う。
淡々と被災地にフォーカスして"戸締り"をする場面も、途中から同じやり取りを見ているうちに飽きてしまった。

②主人公のすずめが好きになれなかった。自分勝手で…その強引さがチャーミングなのかもしれないけど、自分が正しいと信じることに対して甘い…。草太さんや要石など、周囲をあれだけ巻き込んでおいて無責任というか…。

③描いてほしいポイントと描かれているポイントがズレていた。要石が見窄らしくなる理由や、戸締まりにまつわる独自の世界観はもっと掘り下げて欲しかったし(「君の名は。」や「天気の子」はよかった)、逆に、すずめの回想シーンや繰り返しの戸締まり、車旅シーンなどテンポをよくするか端折ってもいい気がした。

④『天気の子』において「好きな人>世界」を選択したことは、決して自分勝手なのではなくて、「世界のために犠牲になっていた目の前の人の命を救う」ことだと思っています。
今作は逆で、「世界>好きな人」だったので(監督もあえて「天気の子」のメッセージと真逆にしたのかもしれない)、一見博愛的に見えるけれど、真実は真逆なのではないかと思う。
つまり、抽象的な"世界"を捨てて目の前の命を救わない限りは、本当の意味で世界なんて救えないのだと…"世界"は命ある個人の集合なのだと…。そういう尊さを、文学は描けるわけで、震災に捧げる祈りならばなおさら、すずめは世界よりも草太さんを選ぶべきだったように思う。

⑤被災地についても、色んな場所をまとめて取り上げていたのがいまいちだった。どこかひとつの地域だけでも充分だと思った。もっと「そこにあったかもしれない人生」を描いても良かった気がする。
祈りがテーマだとしても、それはもうわかっていることで、もっと言葉が届かないほど深掘りしたものが見たかった。

⑥色々な場面や設定において、記号的な描き方をしているのが苦手だった。草太と友人が教育学部に通う大学生であることは、メインストーリーには関与しない設定だったが、キャラクターに付随する情報だった。懐メロのシーンもそうだが、キャラウケを狙ったような装飾としての記号が多くて、それがあざといと逆に引いてしまう。

⑦この作品を通して多くの人が自分たちの記憶を再編成してしまうのがこわい。この物語が集団の記憶となり、その中で美化されていくものがあるとしたら、忘れられていくものがあるとしたら。あなたがあの日、本当は何を感じたのか?たとえば不謹慎だけれど、震災のなかで良い思いをした人だっているかもしれない。
物語が傷に触れるならば、それ相応の覚悟が、作家として提示できる最高の救いがほしかった。
むぎ

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