にさ

すずめの戸締まりのにさのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.3
死に迫る再来


すずめは死など畏れぬ女神のように描かれるが、それは幼さゆえの強がりと驕りであったことが後からわかる。3.11を経験した者は、死という存在と極めて近いところで生活を送っただろう。4歳という幼さで母親を失ったすずめは、その事実を受け入れられないまま少年期を過ごしており、それゆえに口先で死を跳ね除けようとする。しかし、それは強さではなく、幻想の中を生きるということだ。

閉じ師としての渡航は、かつての記憶との向き合うための日々だった。

すずめが芹澤とともに福島を訪れたとき、芹澤はそこを綺麗なところだと言った。それは一面の緑が、豊穣の海まで続く道を指した。
しかし、以前はそこに町が存在し、海を家々の隙間から覗くような眺めだったのかも知れない。波に攫われた土地を美しいと思う芹澤と、その畏れを初めて自覚するすずめの対比は深い印象を落とした。

天気の子に続き、新海誠は子どもの純粋なまでの凶器を隠そうとしない。
誰よりも感謝すべき存在を無碍にすること。愛する者を救うために、解放されたはずの要石を再び人柱に戻すこと。浅はかに、命を迎え入れようとしたこと。
それらを鞘に収めることを知るのはこの映画のもっと先で行われることかも知れない。

神話を倣った演出や、小さな伏線や考察の余地が隠れている。新海誠はプロットを起こすのは上手いが、広げすぎた風呂敷をいつも畳めずにいる印象である。この作品もそんな感じで、秒速5センチメートルや言の葉の庭のようにもう少し小さく丁寧に物語を広げてくれることを希望する。

理由を聞かずに付き合ってくれる人がそばに居るのってすごくありがたいよね。ミミズのビジュアルは好き。
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