通りすがりのいがぐり

生きる LIVINGの通りすがりのいがぐりのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
5.0
爽やかながら基本に忠実な"再解釈"

黒澤明のオリジナル版は骨太で組織の歯車になるという残酷さを描きながらも生きる事の美しさを描いたなら今回のリメイク版はオリジナルに忠実ながらも(ちょっと)大胆な改変を行い生きる事の美しさを重点的に描いたリメイクと言えるだろう。舞台を日本からイギリスに変えながらも「結局どこの国も同じ」役所のデスクの居心地の悪さといい、ビル・ナイの死んでるけど生きてるあの雰囲気や役所の"人間"の厭な感じまでしっかりと再現していて見事だった。しかし今作中盤あたりで前述のように大胆な改変を行いオリジナルとの差別化を図った。大筋は全く同じなのだが、この改変ととある場面を入れ替えたことによってこの映画の後味が全くもって違うものに生まれ変わったのだ。ここが最も賛否の分かれる場面であろう。しかしこの改変が大変気に入った。オリジナル版はオリジナル版の後味がありリメイク版にはリメイク版の後味がある。見事に差別化は成功したと思える。

俳優陣の演技と音楽と一場面一場面の演出力の高さで生まれ変わった"生きる"物語。大変気に入りました。