おざわさん

エンパイア・オブ・ライトのおざわさんのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
4.1
【これはサム・メンデス監督からの映画館への祈りであり、映画への賛歌だ】

初めは「また差別問題などを絡めた恋愛映画か…」とタカを括っていましたが、古くから続くものの廃れつつある映画館を中心とした再生と旅立ちのストーリーが素晴らしかった。

この『エンパイア・オブ・ライト』は『ジャーヘッド』『007スカイフォール』『007スペクター』『1917』などでリアリティーを感じさせる映像作りが印象的なサム・メンデス監督が、自らの体験してきた映画人生を、一本の作品に余りあるほど注ぎ込んだ作品。
映画監督が映画への想いを注ぎ込んだ作品は『ニュー・シネマ・パラダイス』『マジェスティック』『フェイブルマンズ』などこれまでにも数多くあれど、この作品は映画よりも映画館そのものに対する愛着やそこから得られる癒しに重きを置いているように感じます。

夢破れてイギリスの片田舎の見た目は立派な映画館エンパイアに就職した黒人青年と、心身ともに疲れてその寂れた映画館で働くことでしか生きる糧を得られない中年女性が出会ったことで、互いの苦しみや葛藤を癒しあい旅立っていくストーリーが秀逸。

重厚感あふれる立派なエントランスの映画館の鍵を、そこで働くヒラリーが開け売店などの電気を着けるところから始まって、それでもポップコーンは作り置きのものしかない辺りに古臭さも感じさせる演出。
そんなストーリーの中には懐かしい映画作品が名前だけ度々登場し、その度にテーマ曲や名シーンが頭の中にだけ過ぎるという粋な計らいも良し。

使われなくなったスクリーンに紛れ込んだ、翼の折れた鳩を二人で介抱して再び飛び立っていくように青年は再び夢に向かって羽ばたき、それを見送る中年女性はエンパイアで初めて映画を見て癒されていく。
主演のオリヴィア・コールマンはもちろんのこと、そんな二人を見送る映写技師役のトビー・ジョーンズがまた良い味を出しています。

映画館にはそのこ来て名作に笑い涙し、そしてまた日常に戻っていく人々の喜びが詰まっているんだということを、ほんのりと感じさせてくれる素晴らしい作品でした。