まさ

ティルのまさのレビュー・感想・評価

ティル(2022年製作の映画)
4.5
かつての黒人差別のなまなましい現実を描くとともに、差別に対して戦う姿を描いた映画『ティル』を見ました。差別に対峙する強い意思の必要性を伝える佳作です。

1955年にアメリカ合衆国ミシシッピ州で起きた、「エメット・ティル殺害事件」を描いています。すでに黒人差別のなくなっていたシカゴで育った少年エメットは、自分のルーツを知るためにミシシッピ州の親戚の家に行きます。エメットは母親から白人に対する態度を教えられるのですが、言葉の上での理解でしかなく、真の理解は得られていませんでした。そのために、白人に誤解を与えてしまい、虐待を受け、ついには殺されてしまいます。

母親のメイミーは息子の死を悼み、怒り、差別に対して戦います。しかし白人の差別意識の壁は高く、なかなかミシシッピ州の差別解消は前進しません。結果として白人の論理のもとに裁判は進みます。

今の私たちの社会では、かつての黒人差別のような差別に対して、なんでこんなに馬鹿なことをやっていたのだろうと考えます。しかし現実にはこのような差別は今でも残っています。われわれが気付かないうちにこの差別は生き続けているのです。

われわれは虚像を実像だと思いこんでいます。それは人間社会の必然です。この必然を当然のことと思わずに、自明のことを疑い続ける努力が現代人に必要になっているように感じます。

現代の問題を考えさせると同時に、人間の信念を貫く姿を感動的に描く映画でした。
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