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ティルのpongo007のレビュー・感想・評価

ティル(2022年製作の映画)
3.8
 1955年、米国ミシシッピー州で、黒人少年が白人女性に口笛を吹いたというだけの理由で、KKK絡みの白人どもに誘拐され、拷問され殺害された「エメット・ティル事件」と、その後を描いた作品。人種差別主義者による許しがたい犯罪で、その後の公民権運動に大きな影響を与えたという。

 当時、比較的人種差別が酷くなかったシカゴに住む少年エメットは、親戚のいるミシシッピーに旅行。エメット少年は、いまだに綿花畑で奴隷のようにこき使われている黒人らの姿にビックリするのでした。米国南部なんて今でも人種差別主義者が多いのに、当時だったらなおさらですね。米国の恥部であり病理です。

 エメット少年は雑貨店で買い物をした際、店番の白人女性に「映画スターみたいですね」と言い、口笛を吹きます。この女性は、有色人種が大嫌い。人間扱いしていません。黒人に口笛を吹かれたのを「黒人の分際で、白人の私に対してずうずうしいにもほどがある。許せない」という感情になった模様。拳銃で威嚇してきます。その場は黒人たちが逃げ出して、無事だったのですが。

 3日後、エメットが寝ている親戚の家に白人男性2人がライフルを持ってやってきます。「身の程知らずのガキを引き渡せ」「しつけしてやる」…。エメットの叔父は、白人男性らにエメットを引き渡します。連れて行かれたらリンチされ、殺されるのが分かっていながら、抵抗をしませんでした、というか、できなかったのです。

 エメットが死体で見つかった後、叔父は批難する母親に言います。「あのとき、白人に抵抗していたら、この町の白人全員を敵に回すことになるんだ。エメットを引き渡さなかったら、この町の白人は黒人全員を殺していただろう。自分が対峙していたのは2人の白人ではなく、ミシシッピーだ。人種差別そのものだった」。


 本当に心が痛むお話でした。人種差別が産むのは、憎悪でしかありません。憎悪は増幅され、憎しみの連鎖を産むだけです。人種差別は決して許されません。この映画を覩て、改めて人種差別へのいい知れない怒りを感じてしまいました。肌の色なんて、なんだっていいじゃないか。同じ人間じゃないか。なぜ差別はなくならないんだ。本当に悔しいです。

 それでも、人種差別主義者による殺害事件の理不尽さを、エメットの母親が、ほかの公民権活動家らが世に問うていきました。こうした勇気ある人たちのおかげで、世の中は少しだけ変わりました。今でも世界中に人種差別は存在しますが、これからも少しずつでも、世界をよりよく変えていかなければ。人種差別を許さない、ということが当たり前になるまで、みんなで頑張っていかなければ。それを再認識させてくれる、良い映画でした。
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