【ハシゴ劇場鑑賞①】
ベルリン・フィルのマエストロを務める架空の女性リディア・ターを描いた人間ドラマ。
オーケストラの指揮者、主人公ター（ケイト・ブランシェット）。
本作からは、その権力がいかに絶大かを知ることができる。
気に入らないメンバーの更迭、お気に入りの重用、次々と繰り出される指示……。
楽団員はターを前に何も言えず、不満を募らせていく。
次第に裸の王様となるターの姿を見ると、リーダーと独裁者が紙一重であることが伺える。
また、本作ではターが同性愛者として描かれている。
長年のパートナーも女性、重用するのも女性……。
「マエストロ」という男性名詞が示すように、「男性」性を持つ者だからこそ、指揮者が務まるのかも知れない。
しかし、この同性愛をター凋落のエッセンスとして使うあたり、かなり攻めた脚本のように映った。
何より特筆すべきは、ターを演じたケイト・ブランシェットの演技。
彼女をイメージして監督が脚本を書いたらしいが、何かに取り憑かれたかのような彼女の演技には圧倒された。タクトを振る彼女は、まるで鬼神のよう。
同時に、少しずつ追い詰められ、孤立を深めていくターの痛々しさも伝わってきた。
アメリカ英語、ドイツ語、指揮、ピアノの練習に励んだケイト・ブランシェットは、プロの指揮者の目にどう映ったのだろうか。少なくとも、素人の私には本物の指揮者にしか見えなかった。
他の方のレビューにもある通り、決して娯楽性は高くない。ラストの解釈も観客に委ねられている。
２時間30分超えの作品時間、心地いいとは言い難いストーリーなどから、退屈に感じる人も多いだろう。
ただ、ケイト・ブランシェットの鬼気迫る演技だけでも、本作は鑑賞に値すると思う。
