金魚鉢

TAR/ターの金魚鉢のレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.4
『無意識な権力行使の恐ろしさ』

繊細さが求められる指揮者を題材として、神経をすり減らし過敏になっていく様が、音によってシリアスによりじわじわと伝わってきた。ストイックに自己管理してる人間ほど、反動で崩れ出したら実は脆いのかもと思わせるようなエスカレートのしかたで、重厚感のある演技から快演までこなすケイト・ブランシェットの存在がなければ成り立たない映画だと思う。監督が彼女に当て書きした物語というのも頷けるし、今年のアカデミー賞もエブエブ無双がなければ主演女優賞を確実に取れていたレベルだった。冒頭から静かな会話劇の中に専門用語や差別に関するセンシティブな議論が続くので正直ついていくのがやっと。序盤でターの音楽院の生徒やペトラをいじめた子への高圧的な態度や、楽団員と同僚に対しての支配欲の強さを見せ、中盤以降で積み上げてきたものが崩れて転落する様子がスマートな映像的表現を通して狂気的に描かれていた。"無自覚に権力を振りかざしてきたこと"によって全てを失った彼女に対して、転居先のアジアでも、オーディションを彷彿とさせるようなガラスの中にいる少女から一人を選ばせるシーンを用意して容赦なく追い打ちをかけるあたりも徹底されていて素晴らしかった。権力によって支配する者がマイノリティ的な立場という複雑な構図から、キャンセルカルチャーにも一石を投じているとてもメッセージ性の強い作品でした。配信になったらもう一度見返したいです。
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