しんたろう

TAR/ターのしんたろうのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.9
半端ねえ。大家の娘の祖母が亡くなる描写が一番くらった。そのためだけにとっておいたのかよ!と見事やられました。追い詰められるターに追い打ちをかけるようにやってくる死という恐怖を映像的に、視覚的に(セリフで語ることは一切せず)映し出していた。ただターにとって生きる意味は明確にあって音楽である。薬づけになるのかと思いきや、そんな方向には行かせない。周りの人間、ター自身の人に対する壁の作り方、それが全て崩れていって、そして周り人間も残酷で、その人間らメディアらによって崩壊させられる彼(彼女)自身。
オルガを恋人として気にかけていて、オーディションの時に紙を写さず鉛筆の消しゴムで消すだけ、等々映像で語る力が強すぎる。夢の表現は思いっきり絵画的な絵の作り方持っていき方。
奏者たちはターを信じようと言っていたとニーナのセリフからも読み取れる。味方であった。そんな奏者らの象徴的な存在であるチェロリストのコンサートマスターをはっ倒し、傷つけてしまう。ここがいっっっちばん悲惨的なシーン。完璧主義で潔癖で社会的教養もあるターが、どうやって崩れていくのか少し楽しみにも感じていた。けどそう簡単に崩れないのもうまいし、そこが物語を引っ張る力になってる。ほんで最後まで諦め切らない執念。父からの言葉からあの根気強さがここから生まれていったのだと、ほんのちょっと語っておくのも最高にうまい。
もう一回言っとこ
やばい。半端ねえ。本当に。数ある芸術家とされる職業の中でもオーケストラという職種は本当に特異的で、決して個人主義で完結し得ない部分があるからこそ、その狂気がとってもリアルで、映画にも似ている部分があって自分に対する恐怖にも変換されて余計怖かった。

つらつら書いちゃったけど、ありったけの作品に対する熱意と徹底的に描き切ろうとする執念が感じられる最高の作品です。
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