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モリコーネ 映画が恋した音楽家のTPのレビュー・感想・評価

5.0
 映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネの生涯を俯瞰したドキュメンタリー映画。彼がどのように成長し映画音楽に足を踏み入れるようになったかは端的でわかりやすいし、その後の映画音楽に携わるようになってからの音楽への接し方は、モリコーネ本人の真摯で誠実なインタビューを通じて、正確に伝播してくる。

 私は現在でも毎日1時間程度は音楽を聴いているくらい、音楽がこの世にあることを享楽しているのだが、音楽的基礎知識は全くといっていいほどない。
 それでも、その筋の専門家には物足りなくても、音楽的側面を単純化して素人的には非常にわかりやすく説明され、モリコーネの芸術的才能は何となくわかる。彼の音楽には実験的な側面も多分にあるという新発見もあるし、彼の特別な能力というのは彼自身や、彼を語る著名人たちの言葉によっても鮮明に認知できる。非常に興味深いドキュメンタリー。

 その新発見により、結果的に行き違いで受けられなかったのだが、キューブリックが「時計仕掛けのオレンジ」の音楽をモリコーネに依頼しようとしていたことの意外性が納得できる。
 モリコーネは特に母国イタリアでは実験的、革新的な映画音楽も製作していた。そう知るや、モリコーネ版「時計仕掛けのオレンジ」というのも観たかったなぁと思ってしまう。

 映画全編を通じて感じるのは、やはり彼が不世出の映画音楽家であるということだ。その映画に合った音楽を、自分の知識を総動員して直ぐにも作り上げる。その才能は単に能力だけではなく、映画を理解し、愛しているからこそ至高の域に達したのだと思う。

 映画を好きで、映画音楽と共にこれまで生きてきた中で、モリコーネがその天才的才能を映画音楽に真摯に注いできたということに対する感謝の念は、自分自身、彼のベストスコアと考えている「ミッション」「ワンス・アポン・ア・タイム~」「アンタッチャブル」「ニューシネマ~」が重要な作品として本作でも扱われていて、その場面と音楽が見事にシンクロしていることを改めて画面の中で再確認させられた際、不意に涙としてあふれてきてしまう形で表現された。
 こんなドキュメンタリー、いままでにない。本作後、今まで以上に深い理解力でモリコーネを聴くことができるという喜びまで付与される、個人的な感覚かもしれないが素晴らしいドキュメンタリーだと思う。

 私にとっての新ネタは、「ワンス~」の「デボラのテーマ」が「エンドレス・ラブ」の音楽として作って没になったものということ。非常に美しい曲なのだが、まぁ、映画的には「ワンス~」の方で使われてよかったのでは?と思う。

 なお、クリント・イーストウッドが登場するのは当然としても、ブルース・スプリングスティーンやパット・メセニー、クインシー・ジョーンズなどロック、ポップス界の重鎮たちもエンリオへの愛を語るところからも、彼の残した形跡がいかに大きいかが分かろうというもの。
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