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田舎の日曜日のakrutmのレビュー・感想・評価

田舎の日曜日(1984年製作の映画)
3.6
パリ郊外の田舎に女中と二人で暮らしている老人画家のもとに長男夫婦と長女が訪れ、束の間の家族団欒を過ごすある日曜日を静かな筆致で描いた、フランスの小説家ピエール・ボストの小説『Monsieur Ladmiral va bientôt mourir(ラドミラル氏はもうすぐ死ぬ)』を原作とする、ベルトラン・タヴェルニエ監督のドラマ映画。ベルトラン・タヴェルニエ監督の作品は日本であまり見ることができないようで、本作が初めての鑑賞。カンヌ国際映画祭で監督賞と受賞するなど、本作品の評価は高い。

まず印象に残るのが、映画全体を通じての映像美である。主人公の老人画家ラドミラル氏が暮らしている自然に囲まれた広大な屋敷やその周囲の風景はコローの風景画のようであるし、突然訪れた娘アイリーンの服装などはルノワールの人物画を思い起こさせる。画家として功を成すことはできなかったが、ラドミラル氏もずっと自宅の庭や周囲の自然などの風景画を描いてきたことが語られるし、彼の話の端々に印象派やポスト印象派の画家たちの名前が出てくる。

このように映像の芸術性は高いのであるが、特別な出来事は起こらず、何気ない日常が淡々と描かれるだけなので、退屈と言えば退屈かもしれない。でも、平坦な日常をそのまま描くこと自体が問題というよりは、ラドミラル氏の心情(息子夫婦は定期的に顔を見せに訪れるようであるが、独身のまま自由に暮らす娘はほとんど顔を見せないので、寂しさを感じている)があまり映像として描かれていなくて、多くの部分をナレーションに頼っているのが残念である。もちろん、映画全体を通じての寂しげなトーンや、突然現れて突然去っていくハイテンションな娘という存在が、ラドミラル氏の寂しさを表してはいるのだが。ラドミラル氏を演じたルイ・デュクルーの印象が少し薄いのかもしれない。

やはり本作で印象に残るのは、娘のアイリーンを演じたサビーヌ・アゼマだろう。彼女のキャリアに大きな転機をもたらしたアラン・レネ監督との出会いがちょうどこの頃のようで、これ以降はアラン・レネ作品で女優として開花していく。本作での演技も評価され、セザール賞の最優秀女優賞を受賞している。
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