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ケイコ 目を澄ませてのrのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.4

近年増えた聴覚障害者の映画は「聞こえないこと」を中心に据えているのに対し(それが悪いという意味ではないが)、この作品ではそれを全く感じなかった。それ程にケイコは、そして彼らは、聴こえる人達と当たり前に共存しているのだと感じた。肌にすーっと馴染んでくる私たちの日常風景の延長上に広がる物語は、丁寧に設計された環境音や光で構築される。そして特筆すべきは16ミリフィルムの映像。これがボクシングという競技の持つ力強さとは正反対的な不思議な包容力を映画に吹き込み、何とも言えない対比効果を生み出している。

自分が今受け取れる全てを受け取ること。恐怖を伴っても、世界に自分を開いていくこと。そうすることで同じ風景でも変化して見えたり、日々が確実に変化を伴うものだということに気付く。視界も狭まり手話もできないボクシングを手段としてこれらを映像的に描いてしまうとんでもなさ。満足しかない。さすがにちょっと泣きそうになった、

そして何と言っても主演の岸井ゆきのさん…!笑顔の印象が強い役者さんだけど、今作では笑顔はほぼ封印、なんともまぁ一般人感がすごい(めちゃほめてる)。役を生きているとかいう次元には見えなかった。それくらいに鋭く本質を捉え体現している彼女の瞳に魅了されっぱなしだった。今までも十分魅力的な役者さんだと思ってたけど、この映画をきっかけに更に深みが増したように思う。今後も追いかけたい役者さんが増えて嬉しい。

プロデューサーが小笠原恵子さんというモデル×岸井ゆきのさんで映画を作りたいというところから出発し、その後監督が決まったそうなのだけど、全く情報入れないで観たら彼女への当て書きかと思う程のコラボレーションだった。(合わせにいきつつ自分の作品として確立させることができてしまう監督の力量も凄いんだろう。)「きみの鳥うたえる」も最高だった三宅監督の更なる飛躍作となると思う。

キャスト登壇舞台挨拶に三宅唱監督のQ&A付きとめちゃくちゃ豪華な機会に参加できて、幸せだったな…。御三方それぞれの言葉選びに人柄と誠実さが出ていて、充実したトークだった。三宅監督のQ&Aは朝まで繰り広げてほしい勢いで興味深かった。&真摯な受け答えに感激した。

Q&Aでエドワード・ヤンやケリー・ライカートなんかを引き合いに出していた人がいて、観た人それぞれに鑑賞中思い起こした映画を聞いたら面白そう(結構幅がありそう)だなと思った。私は練習中の彼らをみてワイズマンの「ボクシング・ジム」を思い出していた。

ラストと、ケイコの日記のシーンが好きすぎる〜。何度も思い出して反芻している。
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