まさに目を澄ませて見るべき映画で、私が普段いかに耳で映画を見ているかが分かった。BGMはほぼなし、手話にも字幕がつかないシーンがある。ストーリーとしても大きな山場はなく、ボクシングの試合も淡々と描かれる。聴覚障害者を描いた作品として記憶に新しいのが『コーダ あいのうた』だが、劇中で私が死ぬほど泣いたと言えばあのサイレントのシーン。聴者にとってものすごい体験だったことは間違いないが、本作では決して音を奪わない。むしろ徹底して音を聴かせていたと思う。しかしそのどれもがケイコには届いていない。そのことを観客に想像させる映画でした。
