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X エックスのFancyDressのレビュー・感想・評価

X エックス(2022年製作の映画)
5.0
一言、傑作!!!

本作は『ミッドサマー』の映画会社A24が仕掛ける真夏のエクストリームライド・ホラーという惹句で宣伝されているわけだが、私的には、A24といえば、エイミー・ワインハウスのドキュメンタリ『Amy』やバート・レイノルズの遺作『ラスト・ムービースター』の会社である(中々、面白い作品を世に送り出している製作、配給会社なわけだが、今年設立10周年を迎えるということだ。)。私的には全く興味がわかない映画『ミッドサマー』のタイトルを惹句に使っていたので、危うく、この傑作『X』を見逃すところだったじゃねーかよ。w

さて、本作は既に巷でも云われているように、トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』(原題 The Texas Chain Saw Massacre)やスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』(原題 The Shining)からの影響下にある作品なわけだが、他にもマリオ・バーヴァ監督のジャッロ映画『モデル連続殺人!』(原題 Sei donne per I'assassino)からの影響もあるとのことだ(ジャッロ→過度の流血をフィーチャーした引き伸ばされた殺人シーンを特徴とし、スタイリッシュなカメラワークと異常な音楽のアレンジをともなう。字義通りのフーダニットの要素は保たれてはいるが、スプラッターなモダンホラーと結合し、イタリアで永年続いている伝統であるオペラを通じてフィルターをかけられ、荒唐無稽なグラン・ギニョール的な劇作を示す。通常、ふんだんなヌードや性描写をも含む。)。

また、本作には、映画内映画が出てくる。

1979年のテキサスの人里離れた農場を舞台にしたハードコアポルノ映画『農場の娘たち』を本作の登場人物達が撮影しているという設定が用意されているわけだが、この映画内映画には、ちゃんと元ネタがある。1976年製作のゼベディ・コルト監督、グロリア・レナード主演の『農場の娘たち』(原題 The Farmer's Daughters)というポルノ映画がそれである。なんと、タイトルも同じ!w(どうやらdvd化もされているので見ようと思えば、鑑賞可能である。)

本作で、登場人物たちが、ポルノ映画を撮っているというこの設定は、ポール・トーマス・アンダーソン監督の傑作『ブギーナイツ』(原題 Boogie Nights...1977年のL.A.のポルノ業界讃歌的作品。)へのオマージュでもあると云えるだろう。

本作の監督、タイ・ウェストは、1980年10月生まれの現在、41才なので、本作の設定年代である1979年には、まだ生まれていないということも興味深い。つまりは、この監督は実際には70年代を生きていないということで、ある種の現代的センスで、79年という時代の空気を実にモダンに再構築してハイブリッドに描いているのが素晴らしい。そして、小道具ひとつに至るまで実に凝っている(美術部の仕事も完璧!)。

ここで、ちょっと本作のあらすじも書き留めておこう。

舞台は1979年のテキサス。自主映画集団の3組のカップル(75年~79年まで放映されていたTV作品「ワンダーウーマン」の主演女優リンダ・カーターに憧れてるストリッパー兼女優のマキシーンとプロデューサーのウェイン、ポリアモリストのブロンド女優ボビー・リンと同じくポリアモリストでベトナム帰還兵の男優ジャグリン、ゴダールを研究している学生監督のRJとその彼女で録音担当のロレインの3カップル。)は、ポルノ映画『農場の娘たち』の撮影の為に人里離れた田舎の農場に向かう。農場では、みすぼらしく陰気そうな老人で農場の主であるハワードが待ち受けていた。そして、ハワードは彼らを宿泊場所の納屋へ案内する。
一方、ストリッパー兼女優のマキシーンは、母屋の窓からこちらを見つめるハワードの妻である老婆パールと目があってしまう、、、。

そして、ハワードには内緒で、3組のカップルたちは、納屋の中でポルノ映画撮影を始めるわけだが、、、。そこから、恐ろしい惨劇の一夜が幕を開けることになる、、、。(さて、後は映画を見てのお楽しみに。w)

 本作のエンドロールを見て驚いたのは、本作の主人公マキシーンと老婆パールの役を、ミア・ゴス(ラース・フォン・トリアー監督『ニンフォマニアック』でデビューした女優さん。)が一人二役で演じていたということだ。見ていた時は、全く気づかなかった。老婆は特殊メイクをして演じたらしいのだが、全然気づかなかったわ。ミア・ゴスさん、凄いよ!

あと、前半に、マキシーンが鰐のいる湖で泳ぐシーンがあり、凄く印象的なシーンだった。真上から、かなりの俯瞰撮影をしているのだが、どうやって撮ったんだろ?ドローン撮影? 
あんな画面見たことないという感じよ。

また、ポルノ映画撮影隊が、農場に向かう道すがら、牛の死体に遭遇するシーンがあるが、その血の塊と化した牛のグロテスクな様の描写も上手い!この何時間か後に訪れる惨劇を予兆させる場面演出にワクワクしたぜ!

ちなみに、本作の映画内映画『農場の娘たち』の映像は16㎜で撮っているということだが、多分、本作は全編、フィルム撮りだと思う。どう見てもデジタルの質感ではなく、フィルムの質感だった。

話は少しずれるかもだが、本作の時代設定である1979年には、ポール・シュレイダー監督が『ハードコアの夜』(原題 Hardcore...敬虔なクリスチャンの主人公の男ジェイク〈名優ジョージ・C・スコットが演じている。〉の娘が失踪したことにより、その娘を探し訪ねる過程で、ジェイクがポルノ映画業界の裏側に足を踏み入れる というような内容の作品。)がアメリカで公開された年でもあるのだが(日本公開は1982年)、本作『X』の主人公マキシーンの父親はTVで説教をしている宗教扇動家であり、TVモニターの中で父親が「娘は悪魔に唆されて出て行った」と言っているシーンがラストにある。これは、多分、絶対、『ハードコアの夜』からの影響もあるのではないかと私は睨んでいる。

さて、本作の殺人鬼の老婆パールが、まるで色情狂的な人物に描かれているのも、新鮮なアイデアだと思ったし、その老女パールと夫ハワードの鬼気迫る様なセックスシーン(ベッドの下には、、、。😨💦)にも度肝を抜いたぜ!

本作は単なるスリラーホラーではなく、物語の背景に戦争や宗教、そして老いという問題を絡ませているのも非常にユニークである。

最後に本作のタイトル『X』は、秘密のX、極限のXTREME、快感のXTC、未知なるXFACTOR等を意味しているらしいが、まだまだXには様々な意味があり、クリスマスをXmasと表記するように、キリストのX、ジェネレーションX(60年代半ばから80年代前半に生まれたベビーブーム世代の子どもたちをX世代と呼ぶ。)のXなども本作のタイトルには意図されているのではなかろうか。

まあ、とにかく本作『X』は、大傑作といってもいいんじゃね。昔のプログラムピクチャー、エクスプロイテーション、グラインドハウスな映画好きには特にオススメ!とにかく必見の映画だといっておく。
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