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小さき麦の花のsonozyのレビュー・感想・評価

小さき麦の花(2022年製作の映画)
4.5
ベルリン国際映画祭で高評価を得て、中国で若い世代を中心に話題となり興行収入トップに躍り出る大ヒットを記録したという作品。

2011年、中国西北地方の農村。
兄弟の家で居候している農民ヨウティエ(ウー・レンリン)。
膀胱を制御できない(すぐ漏らしてしまう)などの障害を抱え、幼い頃からいじめられてきたクイイン(ハイ・チン)。
二人は、親族に厄介払いされるように、結婚させられる。

村を捨て都市へ出る人も多いためいくつもある村の空き家で一匹のロバと暮らし始めた二人。
荒れ地を耕し、小麦やとうもろこしの種をまき、次第に心を通わせ、互いをいたわり、厳しい現実にあらがうことなく受け止め、質素な暮らしを続けていくのだが・・

地域を仕切るボス(病気のため姿は見えない)に搾取され貧しい村の農民たちの中でも一番貧しいヨウティエの黙々と働く姿と人間味。
ずっと虐げられ生きてきたクイインが初めて得た温かい時間。
二人にいたわられながら共に働くけなげなロバ。
大切な一粒の麦の種・・・

ノーメイクでクイインになりきった女優ハイ・チン(海清)の名演。
監督の叔父で実際に農民というヨウティエ役のウー・レンリン(武仁林)の純朴な佇まいも素晴らしい。

ヨウティエが部屋の壁に貼る双喜紋(そうきもん/結婚を祝う喜が並んだ文字)の切り絵。
卵を孵化をさせるため作ったダンボール箱の穴から漏れる優しい光。
ヨウティエが小麦の粒を花びら型に並べクイインの手に押し付けて花の模様をつける微笑ましい時間(邦題はここからですね)。

土に生まれ、土にまみれ、土から授かり、土と暮らした二人は、やがて土に還る・・『隠入塵煙 / Return to Dust』
儚く切ない愛の物語に胸を打たれました。

※中国で大ヒットを記録したものの、農民の厳しい生活の描写に当局の圧力で上映/配信が中止されたという。(検閲により修正/追加させられ、ベルリン上映時とは異なるエンディングとなったようです)

※Rh(-)の血液型のヨウティエは、そのため更なる負荷を受けるのですが、中国では稀少つながりでRh(-)型を”パンダ血”と呼ぶみたいですね。知らなかった。
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