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小さき麦の花のあのレビュー・感想・評価

小さき麦の花(2022年製作の映画)
5.0
刈られる麦は何を言えるか...というお話。

「主人公たちがそこにいるみたい!」を遥かに通り越して、もはやちょっと「いる」レベルに到達していました。特に「作る」描写がえげつなかったです。住居や食料など、身の回りのほとんどを、役者自身が小慣れた手つきで実際に作っている描写が割と長回しで何カットも出てくるので、一切裏方の気配がしませんでした。とは言っても裏方たちがせっせとセットを組んで、役者に立ち回りを指示していたのでしょうが、ヨウティエとクイインの手の土や、顔の日焼けが、単なる作り物だったとは到底思えません。
また本作は、清貧な農民夫妻の淡々とした描写が主な内容ではありますが、話が進むにつれて、清貧な聖域に現代が現実として着実に侵食していっており、常に観客の目を離さない独特の緊張感を持っていたように思いました。独裁的な国家と自分達の居場所の狭間で揺れ動いている中国人たちの居心地の悪さが、しみじみと伝わってきました。しかし中国では、デジタルネイティブの若者たちがこの現実を真摯に受け止めて、ネットという現代を極めたプラットフォームで評価しているというのには同じ若者として本当に驚きです。近いようで遠い国中国が、すぐ近くに感じられた一時でした。
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