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小説家の映画のhasisiのレビュー・感想・評価

小説家の映画(2022年製作の映画)
3.8
韓国。ソウル近郊、東部にある河南市。
旅行中のジュニは著名な小説家。疎遠になっていた後輩の家を訪ねる。
一線を退いた後輩は、隠れるように街の本屋を営んでいた。
思い出話に花を咲かせ、新たな出会いも。
ジュニはその足で町を見下ろせるユニオンタワーへ向かった。

監督・脚本は、ホン・サンス。
2022年に公開されたドラマ映画です。

【主な登場人物】😷📹
[ギョンウ]女優の甥っ子。
[ギルス]女優。
[ジェオン]映画館のPG。
[ジュニ]小説家。
[セウォン]本屋の店主。
[ヒョジン]映画監督。
[ヒョヌ]店員。
[マンス]詩人。
[ヤンジュ]ヒョジンの妻。

【概要】🔭☕
サンス監督は、1960年生まれ。韓国出身の男性。
1996年に長編デビュー。
本作が長編27作目で多作な人。
製作、音楽、編集も担当しているのだが、
今回から撮影も行っている。機材の進歩に合わせてコンパクト化。YouTuberに近づいてゆくという、親和性が見られる。

本作にもギルス役で登場するキム・ミニは、近年の彼の映画に数多く登場するアイコン的な存在だが、
公然とした不倫関係にある。
ミニは1982年生まれなので、22才差。
2017年の記者会見で、恋愛関係を告白。
妻に離婚を要求し、3年にわたって裁判を行うが、請求は棄却されている。

ミニが参加していない映画でも、何かしら肩書をつけて同伴させる入れ込みよう。
昨年のベルリン国際映画祭では、街中でいちゃつく写真を撮られている。

※短編集のような物語にタイトルをつけながら感想を。⚠️

【感想】🍜🥗
モノクロスケッチ。
三脚立てて固定カメラ。ワンシーンが長い。
会話は表面的なのに、クオリティを気にしない独特なスタイル。
ぶっつけ本番というか、リハーサルの回数が少なそうな印象。
はじめて会ったかのような顔をして、昔からの知り合いの設定なので、引き込まれる感覚はあまりしない。

『偶然と想像』が好きであれば。

キャラが立っている。
1人ひとりに存在感があり、そこで暮らしているような歴史を感じさせる。
韓国の文化や、女性同士の腹のさぐりあいもあるが、
表面上は和やか。それでいて、中身は何を考えているのか分からないような感覚が上手く会話に反映されている。

[本屋]📚
昔の物書き仲間と。韓国人の、相手によって態度が変わる姿を皮肉たっぷりに。
はじまりのぎこちなさ。
手探りで緊張感が高い。

[展望フロア]🗼
監督の実体験に基づいているのだろう、心情の吐露に現実味があって笑える。
周りの怒りが爆発するのかと思えば一瞬で、中身は午後のまどろみのように穏やか。
緊張感と想像力の刺激がほどよい。
全体通して一番好き。

[公園]🚾
休業している俳優と、自分を重ね合わせて。
何でも自分の話をされているような気がして。横から割り込んで熱くなって代弁し始める人。
(こういう人いるわ~)
と言うか、SNSで燃え上がっている人たちの、会った事もない人を攻撃して擁護して取っ組み合っている姿と重なる。

ペットなどの例え話にして、間接的に苦言を呈してくる人もいて、みんな他人の人生に口出しするのが大好きだ。
頭の片隅に引っかかっているネタを、さらっと滑稽に描けて才能ある。

[食堂]👧🏻
お悩み相談。
映画のタイトルが表すように、最近の映画論について語っている。
ほとんどの仕事を1人でこなしているように、いかに小規模で効率化を進められるか、が話題なので、YouTuberだと共感できるのかも。
わびさびの世界へ。

[飲み会]🍶
前段で繰り広げられた構想を実践投入。
俳優に最低限の手札しか与えず、“削ぎ落し”の極みが楽しめる。
少ない設定を手繰り寄せ、必死に間を持たせようとする演者の健気さ。

さらに、せっかく作った雰囲気を台無しにする批判的なキャラの追加。
嫌いな人の分身を登場させて、自分の分身と戦わせる監督の闘志に感嘆。

丁寧に紡がれた人物像も崩壊してゆく。
噛み合わない会話。ぶつかるタイミング。
山場で繰り広げられる現場の気まずさたるや相当なもの。
座っているだけの人物は観客の分身か。
監督は一体どんな気持ちで外から眺めているのだろう。
こんなに意地悪な演出も珍しい。

一応、便宜上は「どうしたら創作への情熱を取り戻せるのか?」の問いと向かい合っているので、お悩み相談へのアドバイスのようにもとれる。

🚬鮮明な落ち。
虚構と現実が溶け合って「そういう事だったのか」と腑に落ちてすっきり。
「どうやってこんなアイデアを考えたのか?」と驚かされるが、
同じような映画を撮り続けている監督にとっては自然な流れだったのかも。

エピローグも自己肯定感たっぷり。
本編と違って、監督の機嫌がいいので幸せが溢れている。
様々な被写体に置き換えが可能なので、妄想のオカズとしても最適。
秋の暖かな日差しに包まれて、高揚感が得られた。
(ポストクレジットもある)

【映画を振り返って】🍂💐
昔の仲間との再会。
長編でありながら短編集のような構成だけど、大まかな流れがあるので迷走はしない。
俳優が感情移入しやすいように、現実と地続きのキャラ設定にしてあるので、無理なく縦に繋がってゆく。

俳優は実力が問われるし、現場で物が生み出される面白さが味わえる。
シチュエーションが俳優の過去と連動しているほど、気持ちも乗りやすいだろう。
こちら側がシンクロした時に、町の景色や過去の記憶が呼び起こされる感覚は中々のもの。
ドキュメンタリーも好きな人間からすると、興味をそそられる表現方法ではある。

🍛鑑賞後にお土産がつく。
断片的な設定の公開によって、登場人物の生活や、関係性を想像する面白さがある。
小説における行間。
仕事の帰り道や、湯船に浸かっている時間など。家々から夕食の香りがしていた懐かしい時代に連れて行ってくれる。

ぼ~とするのに丁度いい。
小難し映画がつづいたので、味辺として良好。リラックスした時間が流れて、あらゆる雑務がどうでもよく思えてくる。

🧸後日談。
本作は、第72回のベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)を獲得。
審査員の粋な計らいにほっこり。
映画論や自己愛が説得力をおびるため。作品に込められた思いを結実させるために貢献したい、と審査員の母性本能を刺激したのかも。
彼らにとってこれほどの参加型もなかっただろう。

サンス監督の近況報告のような内容だった。
60代らしい余裕と遊び心が楽しめる。
小規模映画製作の面白さが肌で感じられて満足。
いつまでも絶えない情熱の炎に元気がもらえた。案外、恋心がある限りはどうにかなるのかもしれない。
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