Terrra

PLAN 75のTerrraのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
4.2
舞台挨拶付き 凱旋プレミア上映@ニッショーホール
カンヌから帰国直後の早川千絵監督のフレッシュな言葉、倍賞千恵子さんのツヤのある歌声も聴けたプレミア上映。

75歳で安楽死の選択が制度化されるほど高齢化の進んだ日本で、社会システムを淡々と受け入れる人々の日常を描く。どのキャストも安易に感情を爆発させることなく、目の奥底に強い信念が滲む表情が良い。

倍賞千恵子演じるホテルの清掃係のミチは78歳。同僚の巻き添えで職を失ったことで慎ましやかな日常が壊れてゆく。アリガトウ、サヨナラなど世界で通じる日本語をここぞの場面に差し込み、退職日にはロッカーを拭きあげ感謝の手を合わせる、同僚とのささやかな夕食後は惣菜のプラ容器を丁寧に洗うミチの凛とした姿は清く正しく美しく戦後日本を支えた日本人像として海外の観客にも理解しやすいだろう。
さらに出色なのがPLAN75を推進する市役所職員ヒロムの叔父を演じたたかお鷹。建設作業員として独り全国各地を渡り歩き、国の繁栄を担ってきた日本人の総体としての役どころは、既存の作品を想起させる手垢のついた役者では担えなかったと思う。彼の長き人生をたった一つの小道具で語らせる演出に唸った。
そしてあらゆる作品で的確な爪痕を残す河合優実は、コールセンタースタッフ役として圧倒的な声の存在感をみせた。

映像はフィックス主体のカメラワークで団地や市役所、介護施設といった今と変わらぬ何気ない風景を切り取るが、どことなくSF味を感じさせるのは外国人の手によるカラコレとサウンドデザインの効果かもしれない。

物語り中盤に挿入される激しいクラブシーンのしょぼさで失速しがちなのは予算に限りがあるアート系作品あるあるだが、本作では大音量で音楽が流れる必然性のある場所で、ストーリー転換の為に意味のある会話がなされたのがよかった。

全体的に落ち着いた日本映画然とした展開のなか、印象的なズームが二度使われる。
一度目は自宅の食卓に突っ伏すミチにカメラが控え目に寄り、微かに劇伴が流れるのだが、あまりの絶望に心乱れ鳥肌が立った。
二度目は終盤、出稼ぎ労働者のマリアが明るい窓の外を眺める様子を背後から捉えたシーン。劇伴も大きく鳴りその後の展開に希望を抱かせる。マリア役のスティファニー・アリアンは映画「メランコリック」と打って変わって寡黙な役だが、陽の気質でファンタジーを信じさせる力がある。

頭はクリアで自立した生活が可能、さらに国の行く末を俯瞰することができる者から率先して尊厳死を選択してゆく社会に憤りを感じる。
いまの日本で製作されカンヌで見い出されたことの意味深さを考えた。
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