柊

PLAN 75の柊のレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
3.6
何とも言えない鑑賞後の風景。と言うのも明るくなるとそこにいるのは、映画の中のPLAN75に該当するような年齢の人達ばっかりだったから。
これは現実の話ではないのに、奇妙なリアル感に襲われた。
平日のお昼間だから客層がそっちに偏るのは仕方がないが、酸素ボンベ付けたり、携帯の呼び出し音が鳴り響いても止めようもないような普段明らかに映画館に来てなさそうなお客さんのオンパレード。それもほぼほぼ満席…
何を求めてこの作品に引き寄せられたのかな?そっちの方がこわい。
だって、これ確かに超高齢化社会の日本に於いてはシャレにならないくらい切実な問題で、若い人に皺寄せがくるのは目に見えている。但しこのまま政府が何の手立てもしなければ。
今だって長生きは罪みたいに言われているし。
みんなお荷物にはなりたくないって思っている。

人は誰でも生まれたら死ぬ。でも役に立たないから死んでもいいと言う認識は違うんじゃないかな。綺麗事を言うつもりはないけど、死んだらもう会えない。生きていてくれるだけで役に立つ事も少なからずあるのでは?それに人の死は尊厳を持って見送りたい。せめてそれができるような社会になる事はできないのだろうか?

評価高いし、カンヌで話題になったから低評価つけにくいのだろうけど、倍賞千恵子の話し相手になった子も磯村優斗にしてもこの制度に違和感を感じている…ように見受けられた。これが当たり前の感情なのでは?でも人は慣れていく。命を選抜するシステムが構築されれば必ず慣れてしまう。
慣れない人が異端児扱いされるのは目に見えている。歳を取ったら役に立たない、障害者は役に立たない…役に立つって何だろう?優勢思考に陥りやすい危険性もある。
そして何故ご遺体の処理をするのが、外国からの派遣労働者なのか?
あえて言うけど倫理観が試される作品だと思う。
文化庁はそれでもお金は出すんだね。

こんな社会にならぬよう、老いることが罪などと思わなくて良い世界であって欲しい。高齢化社会をどう形作っていくか?まだまだやれる事、形勢逆転できる可能性はあるのではないかな。

ちょっと私には後味の悪い作品だった。
ナワリヌイの諦めずに生き抜けとは真逆な生きる事に否定的な作品ではあったかな。
いろんな考えができる作品ではあるね。他人事ではなく若き者もいずれ老いる。だから考え尽くしたい問題である。
柊