しんちゃん

PLAN 75のしんちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

PLAN 75(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

とにかく暗い映画であり、いろいろな意味で背筋が寒くなる怖い映画である。
主人公は、典型的な真面目な高齢者。仕事をクビになっても最終日にロッカーを綺麗に拭いて一礼して去り、最後の晩餐で食した出前の寿司桶もきれいに洗う。勧められた生活保護にも何となく抵抗を感じている。そんな清廉な彼女も、もはや生きる気力を失いつつある。
まずこのシチュエーションが怖い😰
まもなく高齢者の仲間入りする自分にとっても他人事ではないリアルな怖さ。

友人を孤独死で亡くしてから、人とほとんど接しない生活をしていた彼女がプラン申し込み後にコールセンターの女性担当者とボーリングなどして交流する。担当者も「情が移るから」と禁じられているリアルな接触をし、徐々にこの制度への反感を募らせていくが、主人公にプランからの離脱を薦めるには至らない。わずかな救いがあるエピソードではあるが、動き出した国家規模のシステムに抗えない個人的良心の限界を感じてしまった。

もう一人の主人公と言っていい磯村勇斗演じる市役所のプラン75推進担当者は、最初は何の疑問も感じず淡々と時には明るく職務を全うしている。
ところが偶然、長年音信のなかった叔父が申し込みに来てから、彼もまたこのシステムに対して違和感を感じ始めていく。
プラン75の広告・広報が実に垢抜けてこなれている。洒落たデザインやパンフレット、時に貧困層への炊き出し現場に出張所を出し幟を立てて希望者を募る景色は「死」の暗いイメージとかけ離れており、磯村が応募者に対する説明を聞いているとまるで旅行会社のセールスと見紛うばかり!
また、申し込みしてからのフォロー態勢もしっかりしており、毎日15分を限度に決まった担当者が電話で話相手になったり、困った時ややめたくなった時(申し込み時に止めたくなったらいつでもやめられるとしつこく説明がある。まるで携帯電話の購入時のよう)のためのコールセンターも完備。コールセンターの指導役は「お客様に不安なく旅立っていただくこと」の重要性を笑顔で説明する。さらに10万円!の支度金も用意されているのだ。
この辺りの空恐ろしさ❗️
そういう上辺の優しさ、スマートさは、最後を迎えるオペレーションでは一気に杜撰に変じる。まるで普通の病院の採血のように事務的でチープな処理であの世に行かされるのだ。
優しさの仮面に隠された残酷さ、計り知れない命の尊厳と経済合理性や効率性を量りにかける恐ろしさに震えてしまう。
しかし決してあり得ない話ではないのではないか?とふと思う。その時に応募するのは、主人公やサブ主人公の叔父のような孤独で貧しい高齢者ばかりだろうか?それとも真の「尊厳死」を願う恵まれた境遇の高齢者も応募するのだろうか?と考えてしまった。

ラストシーン、死の淵から脱した主人公の見た朝焼けに救いがあるのか否か?重い問いが僕たちに投げかけられた。
少なくとも僕はこんな世界には生きたくない。
しんちゃん

しんちゃん