Yuichi

PLAN 75のYuichiのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
4.5
架空の現代、日本では高齢化対策の解決策として、75歳以上の高齢者に安楽死をする権利を与えるPLAN75が認められた。この制度は超高齢化社会の諸問題に対する抜本的解決策として歓迎ムードに包まれる。合理的な観点で高齢者を死に追いやる残酷な制度であるが、現代の日本では起きかねないというリアリティに溢れる。あくまでも表向きには清潔に他者を排除する。本作にこの制度を決定した権力者は登場しない。日本国民の大勢がこれでも構わないという感覚を持っているからこそこの制度が運用される。この感覚は新型コロナにおける高齢者と若者の対立の中で非常にリアリティのある話題となってしまった。




保険会社の宣伝のように高齢者の死を選択させるための啓蒙ビデオが流される。それっぽい建前を立てて死という本質から意識を逸らそうという感覚が現代において非常にリアルである。
仕事としてPLAN75 を推進する市役所勤めのヒロムが作中冒頭に排除ベンチをあまりにも無邪気に設置する姿が描かれる。自らが誰かを排斥しているという感覚が無いまま仕事だからという理由で物事が進んでゆく。





社会を成り立たせるために人の命をコントロールするようになった社会、超えてはいけない一線を超えた事による社会の緩やかで大きな変化


人の生命を社会の経済的構造の為終わらせると言うこと。合理的に考えればアリな話ではある。トロッコ問題で躊躇なく少数派を殺す事が出来るAIであれば「PLAN75」を採用するのかも知れない。

合理化を追求した社会の末に人間が人間性を失ってしまうと言う話は様々なSFで描かれているが、本作はその先の社会の有り様を非常にリアル且つドライに表現している。

少し前まで認知症の祖母と同棲していた身からすると非常に耳の痛い話ではあった気がする。

実際老後の生活を豊かに送る事はなかなか難しい話ではある。近代化による家族の崩壊と個人化の話は1953年の「東京物語」でも描かれていたが2023年現在でら更に酷いことになっていると言えるだろう。

個人化の成れの果ては孤独である。歳をとると孤独は死に直結し、孤独にならない為にら若いものからの支援が必要になる。
現在、そして今後加速する高齢化社会では若いものからの支援は期待できなくなってくる。
私が75になった時に社会はどうなっているのだろう…

生きる事が苦痛となる事が予想される社会でも人々は懸命に生きなくてはならないのか。

尊厳死を認めてしまったらPLAN75も倫理的にアリになってしまうのでは無いかと言う不安。死ぬ権利が与えられた後の社会。
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