グシケン

PLAN 75のグシケンのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
3.7
この映画が安楽死系の映画と決定的に違うのは、単純に制度自体の是非や倫理観を問うているのではなく、PLAN75の立法趣旨、それを運用する行政の欺瞞、「死ぬ権利」と謳いながら高齢者は早く死ぬべきという社会規範や同調圧力、そしてそもそも「命の価値」に当然に優劣を付けている社会等について焦点を当て、あなたはどう思うかと問いかけるような形で批判しているところだと思う。死のうとする側の人間の尊厳と倫理に焦点を当てた作品とは全く異なる視点の映画である。
特に、コールセンターの女の子が同僚の新人教育の現場をバックに一瞬カメラ目線で睨みつけてくるシーンや、ポツポツ雨が降る車のフロントガラスとワイパーの長回しのシーン(これは処理しても次々と増えていく高齢者を無慈悲に一掃し続けるこの制度のメタファーだと思う。)にはハッとさせられた。
極端な設定だけど、財政圧迫への対策が制度趣旨であるためか、死を選ぶことへのインセンティブがたった10万円の支給だったり、共同火葬やコールセンターのスタッフとの世間話、住民票・家族同意不要の受理などの取組が制度利用者に寄り添う施策であると見せかけて、円滑に高齢者を「処理」していくための手段であったりというのが非常に恐ろしかった。

PLAN75が現実に立案されるかと言ったらまずないと思うけど、立法趣旨自体は決してフィクションの枠に留まらない。
本作は、高齢者を「殺める」側の人間として、人間の尊厳について改めて考えさせる映画なのかもしれないが、本作のラストはハッピーエンドのようで必ずしもそうはいえないもどかしさもある(あの後おばあちゃんが孤独死する未来は想像に難くない。)。この点は、茶飲友達のラストとも共通するものがあった。
そういう意味では、安楽死における死を選ぶ側の人間の尊厳の問題とも切り離せないというのが辛かった。
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