KingKazukiManji

ザ・ホエールのKingKazukiManjiのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
5.0
いくらフレイザーが主演男優賞を勝ち取ったからといえ、予告の映像や、監督がアロノフスキーだということもあり、陰鬱で静かな雰囲気の作品だということは分かりきっていたし、途中で飽きないかと不安でしょうがなかった。

しかしながら、その心配は全くの杞憂であった。

正にブラックスワン以降低迷していた、アロノフスキーの完全復活と賞賛できるほど、素晴らしい傑作であった。舞台劇が原作ということだが、映画として上手く成り立っていたと思う。また、文学的アプローチも好きだった。

個人的には最推しだったとはいえ、今年のオスカーでフレイザーが頭1つ飛び抜けていたかなと感じた。本当はアカデミー受賞前に観たかったのだが、今回いち早く観れてほんとうによかった。いや、ほんとに素晴らしかった。初っ端の登場から、あまりのデカさにド肝を抜かれた。

またもう1人の主人公といっても過言ではなかったのがホン・チャウの存在だ。フレイザーの巨体に負けない演技には度肝を抜かれた。圧倒的な存在感が素晴らしかった。彼女が我々観客との橋渡し役のような役割を果たし、よりチャーリーに感情移入できたというものだ。絶対もっと評価されて良い名優であった。

確かに静かな作品なのだが、チャーリーの死が時々垣間見える緩急の良さで、適宜、観客に緊張感を煽ってくる演出と構成が、いいスパイスになっていた。そしてチャーリーのヴィジュアルがまた、頭では有り得ないと思うのだけど、実際に有り得ているという、理解のできない混乱を生み、物語に引き込まれる。

本作はチャーリーが死ぬことは確実なのだ。だから、ある程度のゴールは見えているのだけれど、それでもあえてチャーリーが死んでいる描写を直接描かないのが好きだった。エリーの心に響いたかは観客の想像に委ねるというのが良かった。
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