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ザ・ホエールの2049のレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.3
 悪夢的な映画ばかり作る印象があるダーレン・アロノフスキーが家族をテーマに映画を作るということで楽しみにしていた作品。またブレンダン・フレイザーがアカデミー賞で主演男優賞を受賞し再び表舞台に返り咲くこととなった記念碑的な作品にもなった。
 ブレンダン・フレイザーと言えばやはりハムナプトラのイメージが強く、幼少の頃の自分にはまさしくアクションヒーローの1人だったので今回の受賞は本当に感慨深い。

 死期が迫った男が疎遠になった娘との関係を修復しようとする話しだが、ここだけ聞けば『レスラー』と同じ。違う部分ももちろん多々あるが、監督にとって重要なテーマであることが窺える。

 宗教により命を失うことになった男とその死に打ちのめされた、彼を愛していた人達。宗教で人を救えると信じている青年。父親に捨てられた娘。
 宗教や文学、語ることについて、ルッキズムなど様々な問題やテーマをはらみながらアパートの一室のみを舞台として上記の数名のキャラクターによって展開するドラマだが、とても真っ直ぐな(正に本作の主人公チャーリーのように)作品となっていて役者陣の演技も素晴らしい。ブレンダン・フレイザーはもちろんのこと、リズを演じるホン・チャウが特に印象的。

 自らのせいで世界の全てに怒りを向ける娘。人生の最後に贖罪を果たそうとする都合のいい父親のドラマのようにも映る。しかし人生の終わりに、贖罪のために行動するかしないかは大きな違いだ。そしてその贖罪によって救えるかもしれない相手が娘なら尚更。自分勝手な偽善者と罵られようともチャーリーには絶対に必要なことだったのだ。

 『白鯨』を読んでいれば更に理解が深まったのではないかと思うと残念。やはり映画は総合芸術、鑑賞者のリテラシーが試される。
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