メモ魔

今夜、世界からこの恋が消えてものメモ魔のレビュー・感想・評価

4.0
今夜この世界から恋が消えても

誰もが失い続ける世の中で、それでも心に留めておきたい人がいる。
誰もが忘れ続ける世の中で、記憶にいない君を探し続ける。
記憶に嘘はつけても、気持ちに嘘はつけない。そんな【人の感情に手を伸ばす】作品だった。

以下良かったシーン抜粋

・最初、主人公が朝起きて、自分が記憶障害であることを知るシーン
導入のこのシーンかなり良かった。視聴者は作品について何も知らない状態から映画鑑賞が始まる。だから映画に感情移入するには、まず映画の中の登場人物に自分の心投影して感情移入するところから始まる。この映画は、最初のシーンで主人公も何が起こってるのか分からない所から始まるので、主人公と視聴者が同じ困惑状態からスタートする。こうやって主人公と一緒に視聴者が今起きている事の把握を一緒にしていく事で感情を一気に主人公に載せる事ができる。非常に、めちゃくちゃいい導入だった。

・【文学少年って書かないよね?】【書かないよ。文学少年と言われるのが嫌いな文学少年っと。】
このシーン、なんか良い。こんな青春を。こんな特別な時間を。、。自分にもそんな可能性があった事を考えるとまた学生に戻りたくなる。

・毎日、記憶喪失の娘に優しく接する。
そのお父さんとお母さんの献身的な姿に感動した。無償の愛。なんて言葉が親子の間では使われるけど、あぁこれのことなんだなって。そう思った。見返りを求めない人間はいないと思ってるんだけど、そうか親ってのは、娘が幸せである事自体に自分の幸せを投影できるんだな。それが何よりの見返りなんだきっと。美容師のお父さんもこの前言ってた。【息子は自分の半身みたいなものだから】。自分が増えるってどんな感覚なんだろ。まだ父親でない自分には到底想像がつかない。でもきっと、優しくふわふわした、、そういった感情なのは間違いない。俺の親がそうであったように。

・親友の泉ちゃんのこのシーンも良かった。
【迷惑かけちゃってごめんね】
【迷惑なんて思ってないよ。
やれることしかやれないし。
やりたいことしかやってないから】
友達としてこれ以上信頼できる子いないなって思った。だってこれって、やれる事しかやらないからあんたの為に無理なんかしない。でも、やりたって思ったらあんたの為にいくらでも無理するんだよ。って。そう言ってるのと同じじゃん。主人公の親友が泉ちゃんで本当に良かった。

・毎日記憶を失う彼女へのセリフ。
【明日の日野も、僕が楽しませてあげるよ。】
これはカッコ良すぎた。こんな事言われたら年齢性別問わず好きになっちゃう。野球で言う所のストライクゾーンが左は1塁ベース、右は3塁ベースくらいにはストライクゾーンでかくなる。もはや球さえ投げてくれれば死ぬ気でバット振りに行く。いや投げてくれなくても構えた時点で球迎えにバッターボックスから飛び出る。

・透が父親に今までの感謝を伝えるシーン
【でも僕は父さんに感謝してる
父さんは今もそばにいてくれてる。
父さんは立派な父さんだ。】
このシーンも良かった。母さんを亡くして前に進む事から逃げ続けてきた父さん。父さんは母さんの笑顔の為に小説を書いてたから。母さん亡き今、小説を書く事で自分の中の母さんが失われて行ってしまうんじゃないかって、怖かったんだろうな。だから筆が進まなかったんだ。自分から母さんを遠ざける程、まだ自分は母さんにお別れができてないと。そうやって別れから逃げ続けてきた父さんに、透が【それでも感謝してる】と、そう伝えられたシーンが良かった。

泉ちゃんに【逃げるの?】と問われた直後のシーンにこの話を持ってくるのがまた、、、構成作家さんうまいなあって思った。
逃げることと、立ち向かうこと、透はどちらを選ぶのか。それをあえて本人に言わさず、逃げてきた人を透の前に見せる事で、こうはなりたくないと、自分から向き合って立ち向かう事が自分にできることだと。そう人生経験から語らせたこのストーリー構成。さすがとしか言いようがない。最高に良いシーンだ。

・花火のシーン。
【幸せが溢れて、私の記憶が追いつかなくなる。】
このシーンも良かった。これ以上ない幸せに自分が満たされている一方で、この記憶も明日には忘れてしまう。そんな幸せと切なさが一言で表現されたワンフレーズ。幸せだけがどんどん進んで、私の記憶だけ置いて行かれて、、、そうやって自分の幸せだったはずの何かは失われていってしまうんだと。分かっていながらも今を噛み締める。そんな花火のような瞬間だった。

・お姉さんが日記から弟を消していくシーン
この映画で1番感動したシーン。
覚えておかないといけない。覚えていたい。そう思う気持ちと、弟が日記から自分を消して欲しいという意思。覚えていたいと願う気持ちと相反して進んでいく日記の改竄に、まるで自分の心からも弟が消えていってしまうんじゃないかと、お姉さんは思っただろう。そんな弟が記録から消えても、せめて自分の心にだけは刻んでおこうと、必死に感情を揺さぶるお姉さんの姿が印象的だった。

・エンディング
【一つでいい。夜の日差しの一つでいい。君の胸を打て】
透の心がそのまま歌詞に載ったのかと錯覚するほどに必死さが伝わる表現だった。
何でも良い、日常的な幸せの中に、彼女の心を打つものがあるならと。必死に彼女の記憶へ、そして心へ訴えかけようと努力した透の感情がこの歌詞に見えた。

【総評】
4.0点
涙をどっぷり持って行かれた。人間は記憶を長く留めておく事はできない。だから大切な記憶は心に留めておくんだ。その心をもっと強く、そして何度も、打とうと必死になった日々が彼女を病から救ったと考えると、人が人を想う気持ちに不可能はないんだとそう思える。
良い作品だった。失った人の意思を継ぐ為に努力する周囲の繋がりが自分の周りには存在するだろうか。今一度、本当に大切な友人って、自分が不幸になった時手を差し伸べてくれる人って、それって誰なのか考えさせてくれる。
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