いち麦

世界が引き裂かれる時/クロンダイクのいち麦のレビュー・感想・評価

5.0
ウクライナ出身のマリナ・エル・ゴルバチ監督は、2014年のロシアの一方的なクリミア併合発表と親ロシア派分離主義の武装集団によるドンバス地方州庁舎占拠を受けてこの映画製作を決意し、2016年に構想着手、2021年に南部オデーサで撮影開始とのこと。2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻を予見したかのような作品だ。

身重のイルカを夫トリクと弟ヤリクで引っ張り合う関係はまるで一般住民たちの間に広がるウクライナ支持者とロシア支持者の分断を象徴しているようだ。ウクライナ・ドネツク州で実際に起きたマレーシア航空17便撃墜事件を取り込んだ生々しい脚本。この事件経過を注意深く見るだけでも親ロシア派分離主義勢力には少なくとも3つのレベルが見分けられる。友人サーニャに振り回され半ば諦観しながらも新ロシア派へ引き摺りこまれるトリクが不甲斐ない。戦地になりそうな状況が見えてきたら如何なるしがらみも捨てて早く其処から逃げるべきだとこの家族たちの顛末から考えさせられた。
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