デニロ

アイ・アム まきもとのデニロのレビュー・感想・評価

アイ・アム まきもと(2022年製作の映画)
3.5
死んだ弟が発見されたのは偶然だった。車をバックさせるときに事故を起こしてしまって警察が関与していたから。ある日わたしのところに警察から弟と連絡が取れなくなった、と電話が入った。わたしは殆ど連絡を取っていなかったのだが、その当時は遺産相続の関係で屡々連絡をしていた。が、彼は心臓に負荷がかかっていたのであまり電話口に出てこない。そんなこともあったので警察には薄情にもそんな風に話しておいた。が、その翌日警察から再度連絡があり、全く連絡が取れないので家の中に入りたいからその許可をくれ、と言われた。そうして彼の遺体が発見されたのです。そんな出来事がなかったらしばらくは発見されなかったのかもしれない。

そんな人が大勢いるのだろう。そんな報道を時折耳にする。

阿部サダヲは想像する。自分には身寄りも友人もなく自らの死に際しては周囲の手の掛からぬようにしておこう。墓石を買おう。葬祭信託をしておこう。そんな風に後顧の憂いなき仕組みづくりをしておこう。そうして実行に移す。阿部サダヲはそうした死にざまを見過ぎてしまった。世間の薄情さも身に染みて知ってしまう。わたしはそうはならない。自分の墓の区画に横たわりそう思う。

が、阿部サダヲは大分オカシイのだ。一介の市職員お見送り係が見ず知らずの他人のために葬儀を行い、その費用を立て替える。それを許している上司篠井英介も相当に無責任でイカレている。新たに県庁からの出向で赴任した局長坪倉由幸は阿部サダヲの行状を知るに至り、非効率、廃止すべき、葬儀というのは遺族のためのものですよ、と諭すのだがこちらの方が真っ当に思える。

死は一瞬のうちに訪れる。普段気を付けているルーティンもその一瞬には役に立たないのだ。その一瞬はその時だけだ。そして人はやり残して唐突に死んでしまうものなのだ。そんなことをあらためて思う作品だった。
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