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アイ・アム まきもとの速のネタバレレビュー・内容・結末

アイ・アム まきもと(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

阿部サダヲがドタバタするのかと思っていたら、笑いは自然な範囲で、しっとりとした良作だった。

察しが悪くて、「こうなってました」と視野が狭くなっていることをたまに自覚する、公務員の牧本。孤独死した死者の事後処理をする市役所の「おみおくり係」をしている。自費で葬儀まで上げているが、そこに人が来ることはほとんどない。

新たな上役から、係の廃止を宣言される。最後の仕事となった死者は、牧本自身の自宅の近くに住んでいた。死者が関わった人を訪ねていくうちに、その一生が明らかになり、牧本にも影響を与えていく。

変わり者を主人公とした映画だが、驚くような行動を見せるわけではなく、あくまでこだわりが強い人程度にとどまっている。この映画の美点はそこで、極端な変人だとかえって我々とかけ離れたヒーローに思えるところを、少し迷惑な人という程度に描写している。変わり者だからではなく、まじめだったから牧本は成し遂げたと感じられた。察しが悪くとも、人の気持ちがわかる人間性にも、共感できた。

故人について語る関係者たちも、牧本に対して、時にいらだちつつ温かい。
フライパンから直接食事を取っていた牧本が皿にのせて食べるなど、牧本にも変化が現れる。しかしその変化が皮肉なことに、牧本の命を奪う。
そこで牧本がつぶやく言葉が「がんばった、がんばった」であるが、これは牧本がとむらった死者の一人の口癖であるが、それは最後の仕事の死者ではない。牧本は、最後の仕事だけではなく、関わったすべての死者に思い入れを持っていた。

また、この「がんばった」という口癖については、疲れたと言うより前向きな感じがするからだという説明が、故人とはまた別の人物によってなされており、牧本の人生は裏返せば疲れるものであったということも示しているだろう。

一点、無理があると感じたこと。牧本は、警察の留置所の記録から、故人の親族を探し当てる。そこもひとつの見所になっているが、これは日本の戸籍制度ではおかしな場面ではないか。というのは、牧本は市役所の人間なのだから、家族関係を調べ当てるなら、あるかないかもわからない警察の記録よりも、役所の戸籍の記録を調べる方法を考えそうに思われるのだ。

これは、本作品の原作が海外の映画であることにより、原作では戸籍の仕組みが「家族」を前提にしていなかったのかもしれないと推測する。
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