いや〜、素晴らしい脚本! 神山健治らしい骨太な作品だった。
神山健治と言えば『東のエデン』。「82億円の電子マネーで日本を救え」と言う、トンデモ設定と政治や権力を絡めたミステリー色の強い作品だったが、
「時を止めることのできる」青年スズシロウが、謎のテロ集団「831戦線」が起こす事件に巻き込まれていくという本作も、エンターテイメントとしての取っ掛かりはキャッチーながら、
「震災」「消費増税」「財務省官僚の自殺」「カジノ建設反対」「行方のわからない予備費10兆円」とか、
バリバリ安倍・菅政権時代のキーワードをストーリーに盛り込み、それをストレートな政権批判にせずに根本的な日本の政治や社会の在り方に問題提起をしているっていうところが拍手したいほど素晴らしい。
【この後、あまりに素晴らしいので、台詞を引用します。知りたくない方は読まないでください。】
「あなたは誰と戦っているんですか?」
「この国の時間を止めたまま、先に行くつもりがない者たち。」
「この国の政府は国民の利益とは関係ない特定の利害を求める者たちだけで構成されている。そいつらの根底にあるのは、思想でも政治哲学でもなく、市場原理主義だ。この大災厄下(コロナ禍)においても、被災者や生活困窮者が救済されない理由は、奴らは福祉を切り捨てても、国民は勝手に繁栄を取り戻すだろうと思い込もうとしているからだ。それ故に、切り捨てた福祉や生活保障の金を、外資や富裕層の減税に当てることで、自らの私腹を肥やし、経済の流れからこぼれ落ちていく者たちが奴隷のような労働しか選べない仕組みをせっせと作って知らん顔をしていられるんだ。お前の親父がダメ押しの大災厄(コロナ禍)で首を括るしかなかったのは、奴らが作った社会構造のせいなんだよ。」
「だが、俺たちが本当に対峙すべきは、生存権すら無効とする過酷な搾取構造を作った敗戦国という立場であり、我々が主権国家に暮らしているということを徹底的に忘れさせる洗脳教育であり、正常な思考を奪う報道機関であり、貿易協定に託けた植民地主義であり、その上に作られた全体主義を喜んで受け入れている、夏休みの最終日を永遠に続けている無責任な連中なんだ。」
「お前もこれから、そいつらに闘いを挑むんだ!」
この言いたいことを全てまとめてくれたような台詞をテロリストと呼ばれる男が理路整然と述べる。こういう怒りをみんな忘れてる。全てを諦めて生きる我々に、神山健治が訴えてくる。
Filmarks では信じられないほどの低評価だが、私は最上級の賛辞を送ろう。素晴らしい作品だ。
『新聞記者』がおもしろいと思った人には特にオススメします!
*誘拐された人材派遣会社の会長って竹中平蔵でしょ(笑)。
*あの使途を決めずに計上された予備費10兆円が、その後株式市場に流れ、株価高騰に繋がっていったという解釈も、あながちフィクションとも思えず唸った。