むーん

神は見返りを求めるのむーんのネタバレレビュー・内容・結末

神は見返りを求める(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

最高に不快な映画だったが、あまりにも自分の好みにマッチした一作だった。悪意が極端に前景化される形にデフォルメされたキャラクターたちは湊かなえの小説のようで誰一人として共感できないし、物語の構成としても、フラストレーションが溜まる展開が大半で、そこに最後までカタルシスがもたらされることはない。この描き方--ひいては監督のまなざし--は、前作『空白』とも通底するものがあるが、交通事故の被害者と加害者という割り切れない関係を題材にした前作に対して、Youtuberの性質を描いた本作では、非常に悪意のあるオトナ側のフィルターとして持ち込まれている。
ただ、再生数を得るためだけのセンセーショナルな演出にのみ気を取られた若者の芯のなさという社会の一側面については痛いほどに伝わる一方で、Youtuberの在り方を肯定する目線が乏しいのは、いささかアンフェアに感じた。『映画や音楽みたいに後世に残るものではなくとも、その場限りの享楽を与え日常に彩りを添えられたならそれで良い』『はたから見れば馬鹿らしいと思われるようなことでも、その企画や撮影、編集には並々ならぬ労力が伴っている』という指摘は確かに正しくとも、作中で取り扱われたような人命や倫理観の軽視をフォローするには少し心もとない主張だと思う。
とどのつまり、本作には矜持や信念を持って活動している動画配信者が登場しない。いわば、この作品の世界は『配信者たち』と、コメント欄から垣間見える『画面越しに広がる〝世間〟』のみで構成された『セカイ系』の性質を持つ。それは、あまりにも登場人物に対しての無関心を貫く市井の人々の描き方に端的に現れている。ファミレスでの怒鳴り合いを咎めない店員、出演者をストーキングしている男の入場を弾かないイベントスタッフ、そして流血している通行人を通報しない地域住民……この作品世界において、インターネットコミュニティの外側は完全に背景化している。そこに形容し難い気持ち悪さ、手触りの不快感を覚えると同時に、これも『イマドキ』なのかもしれないという一種の納得感さえ抱かされてしまいそうな現代社会そのものの怖さもある。
まとまらない感想をつらつらと書き連ねたが、何にせよ、凄く面白かった。個人的には、今年度ベスト級。同監督の他の作品もチェックしておきたい。
むーん

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