べ

夢のべのレビュー・感想・評価

(1990年製作の映画)
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「夢」をモチーフにした8つの短編から成るオムニバス形式の作品。大学の講義で5つ程視聴したので残りの3つも視聴。
夏目漱石の『夢十夜』の冒頭を引用したカットからそれぞれの短編が始まるという形式で、8つの物語それぞれに関連性はないが、時代設定が徐々に現代へと移り変わっていく。
序盤の数作は戦前もしくはそれ以上に昔の日本が舞台となっている。それ故に寓話的・神話的な物語が多く、『日照り雨』でのあまりにも徹底した神話性にはある種の風刺さえも感じる。
基本的にどの作品もどこか風刺的な要素を持っており、例えば『鴉』ではゴッホを西洋的なイメージの記号と見立て日本人がそれをひたすらに追い続けるという物語構成はまさに近現代における日本人の有様を表していると言える。『赤冨士』や『鬼哭』は放射性物質の脅威をダイレクトに風刺的に描いた作品であり、前者では恐怖の可視化や無責任性などがとりわけ短い作品ながらも端的に且つ強烈に描かれている。
個人的に最も気に入った作品は『トンネル』だ。トンネルというのは装置としてコネクタ的役割を果たすものであり、この作品では死後の世界と現世(とは言っても夢の中ではあるが)とを繋いでいる。また、トンネルというと他には未知や予見の表象として登場する(日本文学で言えば川端康成の『雪国』がその代表だろう)事が多く、この物語においても同様の効果を演出していた。また、内容としては主人公の陸軍将校が、戦死した仲間とトンネルを介して出会うというものであり、陸軍将校の彼は自分だけが生き延びた事に対して自責の念を抱いている。その彼の自責の念がいつまでも消えないだろうという事が、物語の冒頭と結末が全く同じ場面になっている(≒ループや繰り返しの表現)事から推察出来るのではないだろうか。
べ