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ロストケアのyunのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
4.2
"安全地帯"と"人には見たいものと見たくないものがある"というセリフが印象にのこったし、様々な角度から浮き彫りになる介護の現実が描かれていた。

私は両親も両祖父母も元気だから自分が介護をしたこともなければ介護をしている姿を常に目にしている環境ではない。大学で介護についても学ぶ機会がありヤングケアラーや老老介護、介護殺人についてある程度の知識はあったが、私は今作でいう安全地帯にいる人間なのだろうなと感じた。
大学で安楽死や尊厳死についての講義をとっているが、学べば学ぶほど当事者にとっては何が正義なのか分からなくなるし、正解はないのかもしれないと思う。

将来は人の生死に携わる職に就くつもりだからこそ当事者だけではなくその家族の考えや想いも汲み取れる人になりたいと思うし、今作でいう"見たくないもの"にも目を背けずに向き合える人間になりたいと思う。

斯波と父の回想の2人のお芝居も、母から頭を撫でられ涙を流すまさみ様のお芝居も素晴らしかったが、1番印象に残っているのは"斯波さんは本当に良い介護士だった"と口にしていた遺族(戸田菜穂さん)が斯波の裁判を傍聴していた際に"お父さんを返せ"と叫ぶシーン。その声を聴いて振り返る斯波の表情が忘れられない。"救った"そう思っていた斯波が遺族から直接その言葉を浴びせられたことで自らの行為が救いではなかったのかもしれないと思ったのではないか。観るものにそう思わせる松ケンさんの表情が素晴らしかった。

大友が作中に身につけている真っ赤なマフラーと斯波父が遺した赤い折り鶴が比較的目を引く色を使っていなかった今作の画のなかで目に止まったが2つの赤にはどんな意味が込められていたのだろうか。
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