NaokiAburatani

ロストケアのNaokiAburataniのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
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泣いた。
予告でありがちな「魂震わせるラスト15分」謳い文句が今回は自分に突き刺さった…悲しすぎるラストにただただ泣くしかできなかった。

トム・ハンクス主演の「オットーという男」が孤独な老人が地域のコミュニティ通じて生きる活力を取り戻す話だが、こちらは極めて対局な映画だった。映画「すべてうまくいきますように」での「貧乏人はどうやって安楽死するんだ?」という趣旨のセリフへの回答になっている気がした。
「妖怪の孫」「WINNIE」そして今作と最近観た邦画が漏れなく日本の歪さを描いていて、この国の未来を考えると暗澹たる気持ちだ。

今作の肝は柄本明さんを始めとする老人達の演技だ。全員漏れなく凄い。また、一見するとサイコパス(一概には言えないが)な松山ケンイチとそれと真っ向から対峙する長澤まさみの演技力と迫真さも見所であり、冒頭触れたラスト15分は思わず目を背けてしまいそうになる位にツラいシーンだった。

ミステリー要素は割と序盤で事件の全貌が判明するため若干薄目。
しかし想い人が大量殺人犯だったことが発覚したために退職だけではなく風俗落ちまでするとは…そして所長のナチュラルクズっぷりのせい?おかげ??で事件発覚したんだから何とも言えない気分だ。
取り調べの部屋、面会室等で斯波と大友が部屋の鏡で合わせ鏡となったり窓越しに重なったりする表現が多用されていて環境によっては彼等がどちらの立場にもなり得たというように思えた。
二人のやり取りは大友が完全に正論を振りかざしている筈なのに斯波が感情論で追い詰めていくことで善悪が逆転していく様が非常に悩ましい問題であるとも思えた。
自らを苦しめていると思い込んでた絆が確かにあった家族もいたし、意外な人物から裁判中に糾弾された斯波自身にも確かにあったと分かったのが非常に切ない。

違和感はなかったが台詞回しが舞台的だったため舞台の方が映えるかもしれないと感じた。
少し気になったのは斯波の家に何故聖書があったのか、そしてその記述から連続殺人に結びつけたのは少し違和感が。その辺は原作読めば分かるのだろうか。

誰しもに起こり得る介護や保育に関しての問題は現実においても山積みだ…
NaokiAburatani

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