はなちゃん

ロストケアのはなちゃんのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
3.5
先進国の条件としては、イデオロギーに関係なく、福祉国家として国が果たす役割が効率的で国民の幸福感の醸成に資するものでなければならないと思う。民間の介護センターに任せっきりな故に、斯波の様な勘違いな人が出てくる。認知症の老人にも生きる権利は存在するし、それを「老人と家族を救う」という理由で殺してしまうという行為はどう考えても正当性は無い。映画では取り巻く家族の悲惨な状況が描写される。介護と仕事とお金と子育てで生活に疲弊した人々だ。斯波は長澤まさみ演じる検事を安全地帯から眺めている別人格だと断罪する。一方で検事は父親に関するトラウマを抱えて斯波に感情移入する。この部分には全く共感出来なかったが、それが無いと本作は破綻してしまう。格差が存在する社会だからこそ弱者は護られるべきだ。格差の底を上げるのが政治の役割だからだ。検事がこの部分に焦点を当てて奔走するなど前向きなテーマに寄り添えば、ここまで暗く重い映画にはならなかったはずだ。少子化対策には資金を注ぎ込むが、老人対策には決してこの国は積極的では無い。介護職の賃金を大幅に引き上げるとか、若い人が介護職に流れ込む仕組み作りをしない限り、斯波の様な犯罪者は居なくならないと思える。