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2046 4Kレストア版の中のレビュー・感想・評価

2046 4Kレストア版(2004年製作の映画)
4.5
過去に囚われていることを理解していても、過去に縋るのをやめられない男。

2046へ行く目的は失くした記憶を探すことらしい。
大切な思い出に浸ることで幸せな気分になったり、現実から逃避できるから、探すこと自体に意味はある。でも、失くした記憶を探してもその先がない。失くしてしまう程度の記憶で、今生きている自分とは関係ない記憶やろうから。

チャウの無茶苦茶強引な口説き。バイに玄関であしらわれても、ビンタされても、プレゼントを受け取るまで笑顔でええ感じの言葉を放ち続ける。
会話の切り返しが鋭すぎるチャウには痺れたけど、とことん気の強い女を演じるバイも魅力的やった。バイがチャウに惚れたあとになって、自分の身を守るために気の強い女を演じてただけで根は繊細で純情やって分かるんやけど、こういう女を好きになるのは男の性なんかな。
気の強さの中に可愛い一面を見出したくて夢中になるんかも。振りまわされるのやって楽しいし、狩りみたいに感じてるとこもあるんかな。

「君と関係を持とうというんじゃない。違う形を望んでいる。飲み友達とかだ」「それで我慢できるの?」「やってみよう」
バイがチャウに惚れてしまうと2人の立ち位置は逆転する。バイは特別で唯一の長期的な関係を望んでいるから、チャウとは相容れない。チャウが払う10ドル札はクッキー缶の中で大切に保管していたのが印象的やった。

大切な一人が見つからないあいだは、時間を貸し借りして過ごす。今回はどっちが時間を貸すの? なんて言っていたけど、最終的にチャウの「時間の貸し借りなんてはじめからない」に至る。洒落たセリフやけど、バイとしては過去全否定されてるようで無念やったやろうな。

2047をハッピーエンドに書き換えようとしたけど、やり方が分からない。「あのときチャンスはあったはずなんだ」
これは、自分のハッピーエンドを思い描けへんから小説をハッピーエンドにすることもできひんってこと。明確なビジョンがない。過去の自分がどんな選択をしていれば、今の自分が満たされているのか分からへん。ビジョンがないからいくら悩んでもうっすら辛いまま。
思い出をちゃんと過去にすることはできひんかった。

過去を省みるといえば聞こえがええけど、実際のところ過去の経験が使える教訓になることはほとんどない。チャウの場合も、あれこれ悩んで結論めいたものを出したんかもしれんけどそれが今に有用なものとしてつながるわけじゃなかった。

・どうやら永遠に続く恋なんてないようだ。
・「元気で。君が過去から解放されたら俺を訪ねてくれ」
自分に言い聞かせた言葉だ。
・愛に代替品はない。
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