MasahideYoshida

東京2020オリンピック SIDE:BのMasahideYoshidaのレビュー・感想・評価

東京2020オリンピック SIDE:B(2022年製作の映画)
4.3
2022年公開
監督 : 河瀬直美
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東京2020の記録映画。SIDE : Bは競技以外の、大会運営に携わる人々の顛末が中心。

誰も答えを知らないし、誰かの悪意や作意による災いではないがゆえに、「犯人がいない事態に社会がどう対応するか」という、その社会の可能性と限界がはっきりしてしまう、残酷な映画。

ナラティブに酔って出てこれなくなる老人たち。「俺の物語」を他人の人生や運命を左右するときの根拠にする人を、人の上に立たせると何が起こるか。どうしてそこまで「俺の物語」をみんなが手助けしてくれると思えるのだろうか。どうしてそうまで思い込める人間をそこまで誰も止められずに育ててしまうのか。関係性の断絶を強く感じる。エゴの愚かさ。

一方で、自ら主体的に「社会にこうあってほしい」という美意識を持つ人と持たない人の差。野村萬斎の語りと前後の映像が語ってる事柄が凄まじく重い。状況や事情、クライアントに対応することの価値は歴然と存在するけど、その延長線上をいくら辿っても、獲得できないものはあるのであって。

主体的に自らや自らを含む社会の理想的なあり方を考える。深く深く。深く考えれば考えるほど、もはや自我なんて小さな枠組みを超越した意志のレベルに到達する。萬斎さんの言っていた「歴史や伝統に対していかに経緯と理解を持つか。自分なんぞはその長い長い線の上のたまたま今の点でしかない」という言葉が、本当に重い。エゴでもなく、かといって思考放棄でもない。

考え尽くすが故に自我を超越した美意識にみずから至る。そういう考えを社会として持てるだけの成熟した国に、果たしてなれるのか。と、そんな大きな悩みはさておいて、自分はどうしたらそうなれるのか。たくさんの問いが埋まっている必見映画。