せきとば

ゆめパのじかんのせきとばのレビュー・感想・評価

ゆめパのじかん(2022年製作の映画)
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自分のしたいことをすればいいし、したいことがないならそれはそれでいい。ただ放任するのではなく、しっかりと悩んで迷う時間を与えることで子どもたちはそれに向き合い少しずつ大きくなっていく。

ハンドボールのデンマーク代表コーチとして五輪金メダリストのソーレンシモンセンが、ある番組の企画で日本の中学校へ来た時も、それまでのスパルタ部活指導からいきなり180度変わった「仲間と考えるスタイルの指導」に戸惑う選手たちを見て「素晴らしい時間だ」と言っていた。

このとにかく情報過多で時間の足りない現代において、悩み戸惑い立ち止まることは生産維持において悪手となる。「80点で良いからとにかく完成させろ」という言葉が現代を物語っているが、これは解決にもなれば重い鎖にもなるのだ。生産維持のための構造を醸成してきた社会は生産への要請が高まるごとにそして悩むこと、戸惑うことを悪として追いやってきた。

しかしピクサーがインサイドヘッドで明確に示したように、我々は根源的にネガティヴな感情を有しているし、ネガティヴ(ともしがち)な感情があるからこそ様々なことに折り合いをつけ整理できるのだ。

悲しむこと、悔しいこと、悩むことは確かに辛い時間であるのとには変わりないが、こういった感情と個人の結びつきをほどいて、知らずのうちに「社会の生産から見て」停滞しているからこれらを「ネガティヴ」であると扱っている節があるのではないだろうか。

ただ悩むこと、ただ立ち止まること、それらの感情を慈しみ、見守る時間をつくること。それは子どもたちのみならず本来すべての人間が根源的な意味での”生きていくこと”に必要なものであり、なによりも「ゆめパ」はそれを繊細に提供しているのだ。
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