クローネンバーグ久方ぶりのSFなのだが、まるで「イグジステンス」の次に作ったかのように、キャロル・スピアーの美術も、ハワード・ショアの音楽(なんとEDM調)も往年のクローネンバーグSFの感じがそのままで嬉しくなってしまった。
あともう2、3本撮ってほしいけど、予算の厳しさを随所で感じたから、結構難しいのかもしれない…。
ぶっ飛んだアイデアからはなかなか予想出来ないが、(少しタルい独特の展開に慣れていれば)意外と見やすい仕上がり。
息子・ブランドンという恰好の比較対象がいる今だからこそ分かるが、クローネンバーグの映画の登場人物は意外と真っ当な人が多いからかもしれない。
ソールもカプリスも住んでいる世界こそ違うけれど、根本の倫理観というかラインは観客に合うように作られているのが発見だった。
個々人の身体が独特の変化を遂げていて、外科手術がパフォーマンスとして広く行われているという設定を最初聞いた時、「そんな風になるかなぁ…?」と思ったけど、これだけユーチューバーがいる現実と、痛みを人類が感じなくなったという設定でさもありなん、と不思議と納得してしまう。(とはいえ痛みを感じないことで変わった世界の描写や、人工の廃棄物で世界が埋めつくされた風景があまり出てこないのは少し、その腹落ちしない感じには繋がっているかも…)