石山裕太郎

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーの石山裕太郎のレビュー・感想・評価

3.0
初クローネンバーグ。
異様なビジュアルと設定を先に知っていたため期待していたが、それを上回る衝撃を受けたかというと全くそんなことはなかった。
技術の発達が進む社会の中で人間に起こる変化が「痛みの喪失」であるというのは面白い発想だと思ったが、痛みの失われた社会で起きていることがらに説得力を感じることができなかった。この社会では性行為の代替として相手の身体を傷つけることが広く行われているようだったが、苦痛を伴わない暴力によって肉体的欲求が満たされることなどあるのだろうか?また、痛みの喪失の他にも新たな特性を獲得した新人類が出て来、そちらに焦点が当たりがちなためこの痛みの喪失という設定はほとんど設定としてだけ生きているという程度だったのも残念。

全体的な物語のテーマとしては、環境汚染とそれに適応する進化、進化する人類とそれを抑制しようとする政府、旧人類と新人類、苦痛と無痛など、対比構造が散見される。しかしこれらを包括的に纏め上げていたというよりも、要素がそれぞれ個別に散らばっていたという印象だった。

退廃的で異様な雰囲気の近未来社会というジャンルは好みだったが、だからこそもっと奇妙な制度や光景を見せて欲しかった。こうした映画でほとんどが暗い画面の会話劇というのは、やはり勿体ないと感じてしまう。
石山裕太郎

石山裕太郎