たいよーさん

あちらにいる鬼のたいよーさんのレビュー・感想・評価

あちらにいる鬼(2022年製作の映画)
3.6
時代を映す鑑のような激動と欲動。全編通して憎悪を感じず、思うがままに生きていた人たちの有様を特と食らう感覚。少し恐ろしく、飲まれそうな雰囲気を厳かに受け取る。


単なる情事と侮れず。時代を造るカリスマ的な存在の言葉に溺れ、愛を求めて顧みないことがある種の美徳とも呼べる時代。そんな中で重なっていく2人と、その妻を描く作品。

断片的に「子宮作家」と呼ばれたり、言葉にある救いと少々面白い言動がカリスマ的な魅力へと繋がっていた瀬戸内寂聴さん。そんな彼女がモデルの、衝撃的な破天に色付けをしながら肉を持った作品と言える。時代的に考えられないほど愛に溺れ、優劣の中に浸った力強さは、昭和の馬力を感じさせる。その中にある確かな愛は2時間少々の厳かな雰囲気で彷徨う。

ただ、そこへの造詣が深くないとなかなか難しい。奔放で掴めない人間模様をなぞりながら、作品の愛に食らいついていく。濡れ場の多さに驚きつつ、大人たちの生き様に息を呑む。いや、呑まれるといったほうが近いかもしれない。

主演は寺島しのぶさん。丸坊主で衝撃的な姿を前々から感じていたが、作品の中で必要不可欠なピースだったのだと腑に落ちる。そして、想像以上に“静”な人間だったことに驚く。自由が奔放なことを指すわけではないのだと受け取った。同時に、広末涼子さんの方が“動”を持っているとさえ感じる。受動的に傷つけられていく中で何を持って生きているのか、余白に答えを求めてしまう。豊川悦司さんの敵わない感覚もカリスマらしさを感じ、凄く良かった。


昭和の人たちの力強さは、時代の強さを蓄えた結果なのだろうと感じる。そんな中で愛を追い求めた姿は、紛れもなく時代の一端だった。
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