よっちゃん

ぜんぶ売女よりマシのよっちゃんのレビュー・感想・評価

ぜんぶ売女よりマシ(2017年製作の映画)
4.0
売買春禁止法のあるスウェーデンでセックスワークに従事した女性が社会福祉局から制裁を受けて暴力的な夫に親権を奪われ、親権の回復と女性の権利としての売春の合法性を訴え続けた挙句、激昂した夫に殺された事件のお話。

スウェーデン政府批判を目的として作られているが、全編を通して人権、福祉、教育面での先進性を見せつけられた感がある。

人権 : 批判の矛先となっている売買春禁止法は、スウェーデンにおける女性の社会進出・権利向上過程の延長線上において、女性保護を目的として当初制定されたものであるとの説明があった。結果的に女性のみセックスワークが違法となり、女性保護目的のはずがかえって女性の権利を奪っているというのがこの映画の主題である。「売春業は女性の権利か、あるいは性的搾取か」という議論がオープンになされているという現実がまず羨ましいと思った。男女平等への枠組みを政府だけでなく国民全体で共有しているという前提がなければ成り立たない議論であり、「家父長的」という言葉の意味が日本より厳格に定義されていると感じた。

福祉 : 殺された女性は子育て中に2週間セックスワークを行ったという理由で社会福祉局から制裁を受けている。映画内の行為は当事者からしてみれば不当であろうが、健全な育児を目的とした政府の法、プログラムの整備が充実していることの裏返しともとれる。

教育 : 年齢、性別問わず登場人物が皆当たり前のように英語を話す。普通にすごい。

日本では議論になっていないどころか、多くの人が公共的問題であるとすら認知していない問題について、政府主導で先進的な価値観に基づいて進めた法整備を、国民自らがより先進的な考えに基づいて批判し行動しているという現状に、純粋な羨ましさを感じた。

「フロリダプロジェクト」や「メイドの手帖」ではアメリカの政府福祉の現実、売春業の育児への影響、家庭内暴力と親権をめぐる裁判などが描かれていたが、人権・福祉先進国と言われるスウェーデン視点でこれらの問題をドキュメンタリー形式でまとめたこの映画も見応えがある。
よっちゃん

よっちゃん