くまちゃん

#マンホールのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

#マンホール(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

これほど徹底したソリッド・シチュエーション・スリラーは邦画には珍しいのではないか?
ソリッド・シチュエーション・スリラーは「ソウシリーズ」によりジャンル化されたが、今作では+α「オールド・ボーイ」との類似性がある。

結婚前夜に参加したパーティ。ハンディカムがまわり、各々が新郎新婦への簡素な祝辞を述べる。幸福の絶頂。
その刹那、路面に空いた空洞へ落下する。
脚の怪我、腐食したステップ、降りしきる雨、膨張する波の花、立て続けに襲い来る苦難の数々。

天国から地獄へ落とされ、助かるか助からないかの絶妙な緊張感、救助待ちから救助されると困る状況への立場の転換、
テクニカルな絶望のコントロールにより、ワンシチュエーションながら観客を飽きさせることなく川村の顛末へ惹きつける。

川村は不死身なのか?
あの高さのマンホールから落ちれば死んでもおかしくはない。脚からきれいに落下したため命は助かった。それでも骨折はするだろう。川村の怪我はマンホール内に設えてある破損したステップの先端で切れたものだ。
それがなければほぼほぼ無傷という事になる。
波の花が押し寄せた際、漏洩したガスにライターで着火し意図的に爆発させることで難を脱した。マンホールの内壁を穿つほどの威力。しかし川村は無傷同然。
優男な外見に似合わぬタフネスぶり。

吉田はかつて社会から孤立していた。
家庭内でも学校でも目立たなかった。
目を向けてほしい一心で同級生の私物を盗んだ。窃盗事件はクラス内で騒ぎになったが吉田には一切疑いがかからなかった。何をしても注目を浴びられない。
優秀で交友関係も広く恋人もおり、見た目も整っている川村に対し嫉妬の炎が宿ってもなんら不思議ではない。

マンホール内から脱するため苦肉の策としてSNSを利用する川村。
女性の方が注目されやすいと安易な考えで「マンホール女」というアカウントを作成する。そこから助けを求める。
予想以上の反響。ネットに蔓延する好奇心と無責任と行き過ぎた正義。
「深淵のプリンス」なる人物は「マンホール女」を貶めた犯人として川村の同僚に鉄槌をくだす。

「深淵のプリンス」の正体は少年だった。

スマホ片手に情報の発信と収集を繰り返し、反対の手にはボウガンを構える。
その腕は相当のものだ。これまでもいくつもの獲物を仕留めてきたのだろう。
さらに彼は一言も言葉を発しない。
ネットで注目される「深淵のプリンス」は現実世界では孤立しているのかもしれない。それはかつての吉田と同様であり、彼は現代の吉田とも言える。
危うい思想の暴走は現実世界とリンクするとともに、皮肉に満ちた結末を迎える。
くまちゃん

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