このレビューはネタバレを含みます
老人ホームで暮らすブルノ。認知症を患い、現在を忘れ、過去を生きる彼は妻と愛犬が待つ家に帰ろうと脱走を繰り返すが、その家にはもう誰もいない。
妻の死も娘の顔も忘れ、美しい思い出に囚われる男の内省世界。視界は霧に覆われ、土の水分を全て吸ってしまう白樺の群生は次々と倒れ、生命と自由の象徴である水は凍る。
ブルノが自分の状況を受け入れ、これまでの人生が閉じていくように…。
「ファーザー」を彷彿とさせる認知症を描いた物語。
記憶が薄れて意思疎通もままならない老人は一見、厄介な存在かも知れないが、あらゆる社会性から解き放たれ、奔放に生きる彼の自由や過去を慈しむ慎ましさを讃えるような作品だった。