陽気な唐梨

我々の父親の陽気な唐梨のネタバレレビュー・内容・結末

我々の父親(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

数年前にこの事件のニュースを観ていたので、ドキュメンタリーは観る必要はないと思っていたが、某YouTubeでホラーよりホラーな新事実が次々と明らかになっていくと紹介されていたためどういうことかと興味本位で視聴。
遺伝子検査をしたら異母兄弟の存在を知り、そこから事件が発覚していく、という流れは勿論ニュースで観ていたので知っていた。しかし、子供たちはそこから不幸が始まったわけではなかったのだ。子供のときから家族の中で自分だけが金髪碧眼(加害者は金髪碧眼)で疎外感を感じ続けていた子もいた。自分は養子ではないか、母親の不貞があったのではないか、家族を疑いながら生きてきた人もいた。彼の犯罪がどれだけ重いことだったのかを恥ずかしながらこの証言で理解した。
また、彼は子供たちとの話し合いの場で、拳銃を携帯し子供たちを面接官のような態度で値踏みし、さらにショックを与えさせた。恐ろしいのは、この許すことのできない加害者は、被害者たちの半分を形成していること。その事実に打ちのめされる被害者たちの苦悩は計り知れない…。中には近所の知り合い同士という関係性の子供たちもいた。下手すると近親相姦の可能性もあったのだ。それを防ぐためドナー提供は3人までという規則があるにも関わらず加害者はこれも無視している。
また、この事実を公表しようとした子供たちはPCをハッキングされて医師に関する情報を消去されたり、自宅に嫌がらせをされたりする。ここは老人にそんなことが可能か?と思ったのだが、断定はされていないが後々そういうことか…と思わせる新情報が出る。
さらには不妊に悩む友人夫婦の治療も請け負い、自身の子供を産ませていた。子供と仲良く写真に収まる加害者の姿にゾッとする。しかも子供の婦人科のかかりつけ医として検査までしていた。彼女が近親者にプライベートな部分を触られていたことを告白するシーンは感情移入が止まらず手足が冷たくなった。
追い討ちをかけるように、加害者には遺伝性の病気があり、本来であればその時点でドナーとなってはいけない人間であったことも発覚する。被害者たちはその病でも苦しんでいるのだ。
加害者を調べていくと白人主義のカルト集団に属していることが発覚する。子供を産む道具である女性にどんどん白人を産ませていこうという思想。前述の被害者への嫌がらせの数々はこの集団が関与していたと思われる。
当然だが母親も心情としてはレイプされたようなもの。しかし、1人の母親は自身の母になりたいという夢を叶えてくれて実際に愛する子供を持てたことに関しては感謝していると述べた。怒るに怒れないという複雑な感情だという。
ちなみに彼は国に嘘をついた罪では有罪(罰金6万ほど)となったが、被害者たちに対する行為についてはそもそも裁く法がないので無罪/(^o^)\
そしてエンドロールでさらっと同様の行為をしている医師が他に44人いたことが発覚と字幕で流れた。
最後の最後まで背筋を冷たくしてくれる演出、素晴らしい映画だった。日本では遺伝子検査がメジャーではないがこのサービスが展開されたときに同様の事件が発覚しそうである。
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